2021年にグッドデザイン賞を受賞

重要文化財を1億円かけて映画館にリノベ。オープン約1年で動員1万人を突破した東京・青梅「シネマネコ」_6
フランス・キネット社の劇場用シートは、2018年に閉館した新潟県の十日町シネマパラダイスから受け継いだもの

自分が理想とするリノベーションの方向性と合致していた菊池さんは、早速、池上さんに依頼。池上さんも「中国の経験が生かせるのではないか」とふたつ返事で快諾したという。

ただし木造建築を映画館にリノベーションするのは消防法や興行場法で厳しい基準があり、相当ハードルが高い。特に今回は、天井や壁に張り巡らされていた梁をそのまま活用しており、その解体工事だけでも2か月を要したという。費用もかさみ、最終的には予算を遥かにオーバーする約1億円に。

重要文化財を1億円かけて映画館にリノベ。オープン約1年で動員1万人を突破した東京・青梅「シネマネコ」_7
梁を生かした高い天井が特徴

それでも館内に入ってまず目に飛び込んでくる梁は、木造建築の良さを実感させてくれるシネマネコの名物に。愛らしいブルーの外観も手伝って、2021年度のグッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)の「商業のための建築・環境」分野で受賞に輝いた。

重要文化財を1億円かけて映画館にリノベ。オープン約1年で動員1万人を突破した東京・青梅「シネマネコ」
カフェではネコ形のフレンチトーストが提供されている

「木造建築を商業施設に改修した例として評価頂き、映画ファンだけでなく建築家の方が参考にと来館してくれる。織物の街である青梅の歴史も、映画と共に伝えられたら」(菊池さん)

「建築を一から作る楽しみもありますが、歴史を紡いでいくのも大切。青梅には古くて魅力的な建物がたくさんあるので、そんな仕事に自分がどうやって関わっていけるのか。それがこれからの自分のテーマかなと思っています」(池上さん)

9月15日には、地域の高齢者の声を反映した映画館入り口のバリアフリー化も完了。講座のみならずコンサートなどのイベントも増え、訪れる幅広い観客たちの息吹がシネマネコを進化させていく。


文/中山治美 構成/松山梢