日本で栽培されている品種の8割はコシヒカリが先祖
実際、僕たちの身近にどれくらい品種改良された農作物があるのでしょうか?
ここからは品種改良によって生まれた、日本の優れた農畜産物を紹介していきましょう。
「だて正夢」「いちほまれ」「あきたこまち」……スーパーに行くと、全国各地のさまざまな銘柄米がズラリと並んでいますよね。どの銘柄米もそれぞれの特徴がありますが、
じつは日本で作られているお米の多くは、「コシヒカリ」の親戚って知ってましたか?
稲はもともと亜熱帯の暖かい地域で育つ、寒さに弱い植物です。しかしいまでは、北陸や東北、北海道といった寒い地域でも米作りがさかんにおこなわれています。これは品種改良のおかげです。
なかでも日本を代表する品種が、1956年に誕生した「コシヒカリ」です。1944年に新潟県で「農林22号」と「農林1号」という2つの品種をかけ合わせ、福井県で育成(新しい品種の候補を育てること)されました。「越の国(北陸)に光り輝く品種」になることを願って「コシヒカリ」と名づけられたそうです。
コシヒカリは1979年から北海道と沖縄を除く全国で栽培されるようになりました。
いまでも日本でもっとも多く作付けされている品種です。2019年のコシヒカリの作付割合※3は33・9パーセントとなっています。甘みと粘り気が強く、ツヤがあり、香りが良く、冷めてもおいしいのが特徴です。
ただ、コシヒカリは背が高いため、雨や風の影響で育った稲が倒れやすいほか、「いもち病」※4に弱いという弱点もありました。そのため、コシヒカリの優れた点を受け継いだ新しい品種の開発が長年進められてきました。
そんな歴史があり、現在、日本で栽培されている品種の8割はコシヒカリが先祖だと言われるまでになりました。実際、日本のお米の作付面積ベスト10のすべてがコシヒカリの子孫なんです!
近年はパンや麵類など、食の選択肢が広がりましたが、長いあいだ、米は日本人のいちばんの主食でした。そのため、全国どこでも安定して収穫できることが重視され、一反※5あたりの収量が多い品種、病気に強い品種、冷害に強い品種など、さまざまな品種が生まれました。
1970年代に入ると、いかに効率良くたくさんの実をつけるかという収量性だけでなく、おいしさをより追求するようになっていきます。
近年は、年々進行する地球温暖化に備え、高温に弱いコシヒカリに代わる暑さに強い品種の研究開発が進められています。
※3 ある作物全体のなかで、特定の品種がどれだけ作付けされているかの割合。
※4 稲に大きな被害をもたらす病気のひとつ。稲に付着したいもち病菌が胞子発芽し、菌糸(きんし)が毒素を出しながら稲を枯らしてしまう。
※5 田畑の面積を表す農業用語。=約990 ㎡。