日本屈指の心霊小屋

登山道道中にある慰霊碑。複数見かけたことから、事故の多い山域だったことがうかがえる。手を合わせて先に進んだ
登山道道中にある慰霊碑。複数見かけたことから、事故の多い山域だったことがうかがえる。手を合わせて先に進んだ
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逃げ込んだ山小屋は、空木平避難小屋という無人の山小屋である。かつては汚いボロ小屋であったらしいが、2003年に改築工事が施され、現在は地元・駒ヶ根市が管理しておりトイレも設置されている。近くの沢には水も流れており、補給も可能。また、晴れた日には空木岳の山容が眼前に迫るようにそびえ、反対側を見れば南アルプスの山容まで一望できる素晴らしい立地だ。

このきれいで整った小屋が心霊スポットだといわれてもイメージが湧きづらいが、そのレベルは中央アルプス随一、いやもしかすると日本屈指の心霊現象が多発する小屋かもしれないのだ。というのも、ここはかつて山岳事故による遭難者の遺体一時安置所として使用されていた過去があるのだ。

なんでも昭和30年代より前の話だが、遺体を安置するだけでなく小屋の前で火葬して一時的に埋めていたこともあるらしい。墓穴が浅く、後日になって白骨が剝き出し状態で覗いていたという逸話も伝わっている。そうした陰惨な過去があるからか、この小屋における心霊体験談は枚挙にいとまがない。たとえば——

夜、明かりを消して就寝しようとした直後に誰もいないはずの床板が「ミシッ……」と軋みだしたことからはじまって、小屋の至るところから「パキン!」「ドンドン!」と何者かが鳴らすような怪音が一晩じゅう聞こえてきた、なんて体験談もネット上にある。

また、山岳救助活動に携わった木下寿男氏が著した書籍『山の軍曹 カールを駆ける 中央アルプス遭難救助の五十年』(山と渓谷社/2002年3月)においても、空木平避難小屋での心霊体験が記されている。該当箇所を部分的に引用させていただきたい。

「静寂のなか、涸れ沢の下のほうからチリーン、チリーンという鈴の音が響いてきた。(中略)ズッ、ズッという足音も聞こえてきた。その足音は石室の前まできて、とうとう石室の屋根を登り始めた。屋根を踏む音がビシッ、ビシッと石室の中に響いてきた」

「ウサギは前の涸れ沢を超えて、対岸の草地のお花畑に逃げ込んだ。ふとそこを見ると、ウサギが逃げ込んだところにスーッと亡霊が立っていた。それは陽炎のようにボーっとしていて、透き通って見えた」

「戸を閉めようとして、なにげなく外を見たときに、私はギョッとしてその場に凍りついてしまった。外の漆黒の闇のなかに、人間の頭蓋骨が白くボーっと浮かび上がっていたからだ」

——謎の怪音に加え、透き通る亡霊、そして頭蓋骨までも目撃するとは恐ろしい。これだけでも相当な体験数だが、同書には、就寝中に幽霊に襲われるなどほかにもエピソードが収録されているので、是非ご一読をお薦めする。
(参考: https://www.amazon.co.jp/dp/4635140024

長野の山奥で迷い込んだ戦慄の「心霊山小屋」 一夜を明かした登山者を襲った身も凍る怪奇現象とは?_4
避難小屋前の草地。花も多く、亡霊が立っていたという逸話はこの場所だろうか。軒下でボーッと雨宿りをしていると、見てはいけないものが出てくる気がして小屋の寝袋に戻った