愛、悲劇、裏切り、復讐―全てが詰まった、ダイアナ元皇太子妃の数奇な生涯。彼女を殺したのは誰だ_2

チャールズを見返したリベンジドレス

それはチャールズがカミラ夫人との不倫関係を認めたテレビ番組が放送された日のことだった。ダイアナは露出部分が多すぎるという理由で数年間、着用していなかった黒のドレスを着てパーティに出席したのだ。そのドレスを着こなしたダイアナの自信に満ちた美しさは、世界中に配信されて賞賛され、不倫を告白したチャールズの話題を吹き飛ばした。その黒いドレスは、チャールズを見返すためのドレスとして、「リベンジドレス」と命名されるほど有名になったのである。


それにしても、ダイアナがチャールズと別居してから、2人の王子のためにも、そして自分自身の新たなる人生のためにも強くあろうとする意志が、ドレスやヘアスタイルにも表れているのがよく分かる。


婚約発表当時の彼女は、ノーランズのようなアイドル系のボブヘアで、初々しく恥ずかしそうな表情を見せていた。「良妻賢母になりたい」。彼女のそんな望みを打ち砕くチャールズの裏切り行為や、古い王室のしきたりに苦しみ、自殺未遂と自傷行為に走ったダイアナ。彼女が過食症で嘔吐を繰り返した過去は有名だが、次男ハリー王子を出産した後の、あまりにもやつれた姿は実情を知ると哀れを誘う。まるでライオンのたてがみのようにボリュームを持たせたヘアは、肉の削げた彼女の顔をさらに細く見せたものだ。


だがしかし、ダイアナはチャールズと離婚という決着をつけて、自分を活かす道筋をつけようとしていた。王室を離れて、慈善活動に力を注いだのだ。ときにはヴェルサーチやシャネルなどのブランド服を素敵に着こなしたが、彼女が熱心に取り組んだ地雷除去の作業を行うときには、飾り気のないカジュアルな服装をして現地に向かった。ダイアナには、明らかに自分の意志で切り拓く新しい人生が待ち構えていたはずだ。このドキュメンタリー映画に続き、先日のエリザベス女王の葬儀におけるヘンリー王子夫妻を観ていたら、繰り返す歴史というものを考えずにはいられない。

『プリンセス・ダイアナ』(2022)The Princess  上映時間:1時間49分/イギリス
監督:エド・パーキンズ
9/30よりTOHOシネマズシャンテほかにて公開/STAR CHANNEL MOVIES
https://diana-movie.com/#

イラスト・文/石川三千花