「順位よりも自分の演技をしたい」

「『お疲れさま』って思いますけど、やるからには決めたかったとも思います。しっかり休んで腰をケアしたいな、と。痛みを取って、来季も頑張れるように」

戦いの代償は大きかった。腰の完治が遅れ、右足首の痛みも出た。まさに満身創痍だった。

2本のトリプルアクセル、4回転を入れるプログラムは、誰にも真似できない。フィギュアスケートは基本的にすべて右足で着氷するが、何度も繰り返すことで一部に負担がかかり、他にも歪みが出る。2019年秋には左足首を怪我し、激痛が走るルッツを回避。酷使は連鎖になっていた。

高い意識でトレーニングに向かう姿勢が仇になったか。しかし、紀平はその生き方によって大技を習得し、スケーティングを洗練させてきた。苦境の中でも力を出し切れるようになった。生き方そのものが、彼女のスケートを形成しているのだ。

復活する紀平は、どんな滑りを見せるか? ブランクがあるだけに、焦りは禁物だ。

「順位よりも、自分の演技をしたい」

紀平は常々言うが、そこに答えは出ている。彼女本来の演技を表現できたら、誰にも負けない。彼女の中に女王がいるのだ。

文/小宮良之  写真/AFLO

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