男役は男以上に男、だからこそ難しかったオスカル

デビュー前から男役ひとすじで進んできた汀さんにとって、オスカル役は想像以上に難しいものだったそう。

 オスカルは男ではなく、凛々しい女の人ですよね? でも宝塚の男役は、たとえ女が演じていても「男」なんです。男役として、男に見えるように表情もしぐさも間合いも練習を積んでいるから、そのまま意識せずにオスカルを演じると「男」になっちゃうわけ。かといって、女らしくしてもオスカルにならない。男役として、男もできるし、女としての自分で女も演じられるけど、オスカルはどっちでもない。っていう事実に気がついた人はあまりいないと思うわ(笑)。

その「間」をどうしようか? というのでずいぶん試行錯誤しました。女性だから、気持ちは可愛くなくちゃいけない。オスカルも、外では近衛兵の隊長として凛々しくしてるけど、しぐさには細やかさや可愛げがある。剣を持って踊るシーンでも「女」やないといかんわけよ。でも、男役のまま女を演じると女々しくなるか、男のままになるかのどっちかやから、その「間」がなかなかつかめなかったです。
公演初期は、ちょっと男に寄り気味やったと思います。東京公演の頃にはだんだんと「これや」っていうバランスが見えてきました。

男役が演じるけど男ではないのがオスカルの難しさ。汀夏子が振り返る宝塚のベルばら_3
「ベルサイユのばら〈完全版7巻」(集英社刊)より、汀さんが好きなシーン。「アンドレと契る前に自室でヴァイオリンを弾くオスカルは、ジャルジェ将軍の嫡子としてふるまうオスカルではなく、普段のオスカル。その穏やかさが出ていて好きです」

汀さんが宝塚で活躍された時代は、まだまだ「女性は結婚して仕事を引退し、子を育てるもの」という認識が一般的だった。そんな世論の中、トップとして輝く中で引退し、現在でもなお男役として活動を続ける汀さんは、まさにオスカルそのものだ。

 最初『ベルサイユのばら』が私たちの雪組ではなく、月組に決まった時は、「もう私らはやれへん、地獄や!」と思ったんですが、次の年に演じられることになって「こんな幸せはない!」と思いました(笑)。『ベルサイユのばら』は、宝塚にとっても、私にとっても奇跡と言っていいくらい大きな存在です。
演じている最中は、なんとも言えないほど幸せで――。もう、このまま死んでもいい……そしたらきっと、お墓に花がいっぱいくるわーとか、図々しい事を考えてました(笑)。それ位、あの時は『ベルばら』が究極やったの。
ここで死んだら、みなさんがちゃんと見てくれて、大勢の人の心に自分の名前が残る――って思うてました。それから……まさかこんなに長生きするとは(笑)。



Ⓒ池田理代子プロダクション  取材・文/ハナダミチコ

愛と感謝の50周年 ベルサイユのばら アニバーサリーブック
池田理代子
男役が演じるけど男ではないのがオスカルの難しさ。汀夏子が振り返る宝塚のベルばら_4
2022年9月15日発売
2,420円(税込)
A5判 ソフトカバー、160p(カラー80p、活版80p)
ISBN:978-4-08-790083-5

連載開始から50年、世代を超え、世界中の読者の心を揺さぶってきた『ベルサイユのばら』。その軌跡と魅力を伝えるファンブック・永久保存版!

コンテンツ:
・作者自身のコメント入りで紹介するイラストギャラリー
・カラーでたどる「ベルサイユのばら」50年史
・もっとベルばらを知る…エピソード編ガイド
・ベルばらを継ぐ…著名人描きおろしイラスト&寄稿
・池田理代子先生描きおろし「理代子のひとりごと2022」
・今だから聞ける、言える「50周年50問50答」
・満を持して新作:ベルばらカルタ50th
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●「誕生50周年記念 ベルサイユのばら展―ベルばらは永遠に」

男役が演じるけど男ではないのがオスカルの難しさ。汀夏子が振り返る宝塚のベルばら_5

宝塚歌劇を含めた『ベルサイユのばら』50年の歴史を詰め込んだ展覧会「誕生50周年記念 ベルサイユのばら展―ベルばらは永遠に」は2022年9月17日~11月20日まで東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)にて開催中。

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