更なる高みへ到達するために必要な“数字”

――今シーズンの数字的な目標として、20ゴールに関与する(ゴールとアシストの総数を20以上にするという意味)という目標を久保建英は掲げています。小澤さんはどう予想されますか?

もちろんそれをクリアして欲しいですが、これまでの実績からすると20ゴール関与は難しいかな、とは感じています。ただし、15ゴール関与は可能なのではないでしょうか。

逆に言えば、それくらいできなければ、彼の次のステップアップが難しくなってきます。今回、完全移籍でレアル・ソシエダに来ていますが、おそらく彼の最終的な希望はレアル・マドリードに戻ることでしょう。
レアル・マドリード在籍選手の昨シーズンの数字を見ると、アセンシオが10ゴールで、ヴィニシウスは17ゴールなんですよね。つまりレアル・マドリードで攻撃的な選手として出場したいのであれば最低10ゴール、絶対的なレギュラーになるのであれば15ゴ―ルは必要だということ。
とは言っても、そのレベルにいきなり到達するのは難しいので、具体的に言うと今シーズンは7ゴール、8~10アシストくらいを目指すのが現実的だとは思います。

――プレースタイル的には、ゴールかアシストのいずれかを伸ばすべきというよりは、どちらも狙える選手になっていくべきでしょうか?

アシストが得意でそこに特化してしまうと、選手としての怖さが無くなってしまいがちです。今のダビド・シルバがまさにそういうプレーヤーなのですが、そうすると相手がラストパスに反応してきて、カットされやすくなるんですね。

まずゴールを見せた上でアシストもできる方が、プレイヤーとしての幅が広がると思います。だからFWで起用されている今の内に、どんどん意欲的にゴールを狙い、得点を決めておいた方が、アシストを伸ばすことに関しても相乗効果がある、と言えるでしょう。

――現状の久保建英の弱点は、どのような部分でしょうか? そこを含め、今季どのようなシーズンを送っていくと思いますか?

弱点で考えると、守備時の強度、ハードワークを連続して行う部分は、これまでメディアで指摘されることはありました。けれども、私にはそうは見えませんでした。これまでの3年間は、チームとして低い位置に下がりすぎて守備をしていたので、彼だけの問題ではなく、チームの守備の構造的な問題である、と考えていました。

以前私がスペインで乾貴士を取材した時に、「日本人選手には日本人独特の感性の高さがあり、監督が1言えば10汲み取れる」というような話を、当時の監督から聞いたことがあります。乾はスペイン語をほとんど話せなかったのですが、パッと指示して練習させたら、監督が想像した以上のプレーをスペイン人選手よりもできてしまうので、そういう部分でも評価が高かったんです。
久保にも乾と同じような感受性の高さがあり、守備の立ち位置やプレッシングの掛け方なども深く理解できているので、本当に賢いプレーヤーだと思います。

なおかつ、現在ラ・リーガでプレーしている外国人選手の中でも、久保はトップレベルでネイティブなスペイン語を話します。コミュニケーションや戦術理解でも問題がないのは、強みの一つだと思いますね。

これまでは、彼の課題をなるべく課題として見られないように、誤魔化しながらプレーする、少し無理難題があるような3年でした。ですが今シーズンは、伸び伸びと自分の武器で勝負できる初めてのシーズン、完全に大化けしてくれるシーズンになるのではないか、と期待しています。


取材・文/佐藤麻水