漫画家の“表現の自由”を勝ち取るために

日本初の漫画家出身政治家となった赤松氏だが、なぜ漫画家として順風満帆であるのに、政治家を目指すようになったのだろうか?

振り返れば、2012年10月に公益社団法人日本漫画家協会に入会し、2018年6月には常務理事に就任、この頃から衆参議員会館通いをしていたという。

「いわゆるロビイング(政治家に対して行われる陳情)っていうやつですね。特に重点を置いていたのが『表現の自由』です。出版社とタッグを組んで、児童ポルノ禁止法改正案の中に創作物を入れようという改正法案について抵抗していました」

実在する児童の保護が目的のはずなのに、実在の被害者のいない漫画、アニメ、CGなども規制しようという方向に向かっていた児童ポルノ禁止法改正案に対し、漫画家など多くのクリエイターが「3次元と2次元の区別はついている」「2次元の児童ポルノはあくまでもファンタジーだと書き手も読み手もわかっている」として、漫画雑誌の誌面やネットで、反対の声をあげていた。

その結果、2014年の参院本会議では、創作物である二次元の児童を除外した改正案が可決されたことは記憶に新しい。赤松氏らのロビイ活動が成果を上げたのだ。

つい最近も、「献血キャンペーンのポスターに採用された漫画のキャラクターが巨乳すぎる」「アニメキャラクターのスカートのシワが性的」などと、ネットの炎上対象となっていたサブカルチャーコンテンツ。それに対して「どうしてそういうイラストになったのか」を理路整然と説明する漫画家は少なく、表現の自由を守ることより、創作活動が第一というクリエイターの方が多い印象があることも否定できない。

「おっしゃる通り、『自分の好きなものを描いているだけで幸せ』という仲間は多いですね。そういう仲間が、議員会館まで表現の自由の重要性について、国会議員に説明しに来るっていうのは、なかなかハードルが高いですよ。だから私が主にやってきた、というのは確かにあります。

そもそも私は、編集者になりたかったんですよ。漫画だけ描きたいっていうよりは、漫画を通して誰かの才能を売るとか、発掘するというのをむしろやりたかった方だったので、ロビイ活動にはもともと向いていたかもしれないですね」

長らく漫画業界を悩ませている問題がある。「海賊版」の存在だ。違法にスキャニングした漫画を読むことができる海賊版サイトは、巨額の広告収入を目的に運営され、日本の法律の手が及ばない第3国のサーバー上で運営されおり、その取り締まりは、お手上げ状態だ。

「海外の海賊版サーバーを停止させるためには、議員外交で現地に赴かないと向こうの警察もわざわざ動かないなと思ったり、漫画の連載をやりながらロビイ活動をしているのではもう間に合わないっていう段階にきたんですよね。もう待ったなしの状態です。『ロビイストではなく、本物の議員になってやっていかないとだめだな』とうことになって、立候補しました」

史上初となる漫画家国会議員・赤松健が実践したい“漫画外交”が成し遂げるもの_3
見事初当選した赤松健・参議院議員。売れっ子漫画家として週刊連載を抱えつつ、公益社団法人日本漫画家協会の常務理事としても、海賊版対策や著作権法改正、表現の自由について国会ロビイングや政党ヒアリングに参加し、何年もクリエイターとユーザーの権利を守ってきた