3.11後に次々と「基準地震動」が上がっている

――その一方、原発を止めるための裁判で、住民の勝訴が複数ありました。例えば昨年3月18日、茨城県の水戸地裁は、原発事故の際の避難路が確保できないとの理由で日本原子力発電の東海第二原発の運転差し止めを命じました。この判決をどう評価していますか?

水戸判決は、「原発事故に伴う30キロ圏94万人の避難計画に実効性がない」という避難計画を軸にした判決で、これは全原発に適用されるだけに評価します。しかし、それだけで最高裁で勝てるかといえば、難しいと思います。

というのも、水戸判決は「基準地震動については、原子力規制委員会の審査に不合理な点はない」と書かれているからです。つまり、原発は地震に耐えられると判断したということです。

「基準地震動」とは原発の耐震設計の基準となる値で、原発の敷地で起きると考えられる最大の揺れをシミュレーションしたものです。その大きさはガルという単位で示され、例えば前述した東海第二原発では1009ガル、関西電力大飯原発3・4号機では856ガル、四国電力伊方原発3号機では650ガルとなっていますが、多くの原発は600から1000ガル前後となっています。

しかし、日本ではそれを大きく上回る地震が頻繁に起きています。例えば、2016年熊本地震の1740ガル(最大震度7)、2018年北海道胆振東部地震の1796ガル(最大震度7)などで、2000年以降、1000ガル以上の地震動を記録した地震は17回も起きているのです。

“原発を止めた”裁判官が、退官後も原発の危険性を訴え続けるわけ_2
原発の耐震設計の基準となる「基準地震動」を超える地震は、日本で頻繁に起きている。映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』より

――東海第二原発もまた地震に弱いと?

1978年に運転を開始した東海第二原発の基準地震動はもともと270ガルでした。ところが、2011年東日本大震災後に1009ガルに引き上げられています。コンピュータのシミュレーションで数値が約4倍に跳ね上がったというのです。

原発は停電するだけで過酷事故につながります。日本原子力発電所は「基準地震動による耐震評価を行い、健全性を確認。補強が必要と判断されたものについては、耐震補強工事を実施する」としていますが、配電関係の耐震性を4倍にすることは不可能だと思います。

たとえ耐震性が1009ガルになったとしても、日本では1009ガルを超える地震がいくつも起きています。水戸地裁の判決が「原発は地震に耐えられない上に避難計画の実効性もない」との判決であればなおよかったと思います。

――基準地震動の引き上げは全原発であるのでしょうか?


そうです。東日本大震災後に次々と基準地震動が上がっているのです。にもかかわらず、それを上回る地震が頻発しています。そして電力会社は「この原発敷地に限っては、基準地震動を上回るような強い地震は来ませんから安心してください」と言っているのです。

世間では、あれだけの過酷事故があったのだから原発は安全に運用されているに違いないと思われている。そうではないことを訴えるために、私は請われれば全国どこにでも行って話をするのです。

“原発を止めた”裁判官が、退官後も原発の危険性を訴え続けるわけ_3
全国で講演を行なう樋口氏。映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』より