秋春制移行で見えてきた課題

もう一つの問題が、シーズンの移行による影響だ。Jリーグでも長く議論されてきた秋春制(シーズンを秋に開幕して春に終えるという欧州主要リーグと同じ制度)を、WEリーグが先に採用したことはあまり知られていない。

秋春制のメリットとしては、主要リーグが集まる欧州にカレンダーを合わせることで、代表強化や選手の移籍の追い風になると考えられている。逆に課題として指摘されてきたのは、雪国での公式戦開催やスタジアム環境の整備、日本社会の卒業・入学時期(3-4月)と合わないことなどだ。

WEリーグにも新潟や仙台、長野など寒冷地のクラブがあるが、Jリーグのようにオープンな議論はされないまま決まった。それは、WEリーグが協会主導のトップダウンで成立を急がれてきたこともあるだろう。

では、実際にWEリーグは秋春制のメリットを享受しているのだろうか?

今季はコロナ禍の厳しい渡航制限も影響し、外国籍選手の加入は9人(2022年3月末現在、退団した選手も含む)にとどまっている。指導者の来日は実現しなかった。ビッグネームを獲得するには高額年俸が必要だ。

逆に、なでしこジャパンの選手たちの海外挑戦は活性化している。一方的な戦力の流出は、リーグのレベル低下を招きかねない。

今年1月から2月にかけて行われたアジアカップで、なでしこジャパンはW杯出場権を獲得したが、準決勝で中国に敗れ、3連覇を逃した。本来、秋春制になるとこの時期はシーズン中のためコンディションは良くなるはずだが、国内公式戦の数が少なかったことで、コンディション調整に時間を要した影響もあったはずだ。

WEリーグは「世界一アクティブな女性コミュニティ」へ向かっているか? ~見えてきた現状の課題_b
今年1~2月に行われたアジアカップ。なでしこジャパンは準決勝で中国にPK戦で敗れ、大会3連覇を逃した

一方、秋春制の課題として懸念されてきた降雪地域への対応については、1月と2月をウインターブレイク(冬休み)とした。複数のクラブ関係者から「この期間にカップ戦を行ってほしい」という声が上がっていたが、叶わなかった。予算が足りないからだ。

欧州のプロリーグは1月、2月も試合があり、カップ戦、チャンピオンズリーグなどで年間40試合近くをこなすチームもある。しかし、WEリーグはもともとチーム数が「11」と少なく、リーグ戦は20試合のみ。プレシーズンマッチや皇后杯を合わせても30試合に満たない。 

この試合数では、強化の面でも興行面でも「プロ」の基準を満たすことは難しい。公式戦が減れば、若手や控え選手の出場機会がなくなり、競争力の低下は避けられない。コンディション調整も難しくなる。

実際、今季は例年に比べてもリーグ全体でケガ人の数が多くなっている。

あるチームの関係者は、「初めての秋春制で心身のコンディショニングが従来と変わってしまい、ケガ人も多く出て前半戦は苦労しました」と明かした。
クラブ側からは「ウインターブレイクが長すぎます」という訴えも聞こえてくる。

中断明けのWEリーグ後期開幕戦は、5試合中4試合でそれまでの平均観客数を下回った。コンスタントに試合をしなければ、ファンの心が離れていくのは当然だ。

十分なシミュレーションがされないまま秋春制移行が形式的に進められ、準備不足に予算不足が拍車をかけた。その負担を引き受けているのはクラブなのだ。

JFAの女子部門のトップを務める佐々木則夫女子委員長の耳にもその訴えは届いており、対策が急がれている。

「WEリーグの試合数や(プレーの)質を上げて、代表の遠征中に若い選手たちが切磋琢磨できるような環境も作らなければいけない。そのためにはスポンサーが必要なので、理想を求めつつバランスを模索しています」(佐々木女子委員長、アジアカップ中のオンライン取材)