井上康生が考えるスポーツの目的

––井上さんは、指導者になる前に大学院へ進学されています。柔道界は、研究者あるいは博士号を持っている指導者が多い印象です。こうした点は、どのように柔道界に活かされていますか。

多くの研究者の方々のおかげで、日本柔道の競技力は確実に上がっていると思います。私も大学院へ行きましたが、私の場合はとても研究などと呼べるものではないかもしれない。それでも、なぜやったかというと、指導者として学ぶ心を忘れたら成長が止まると考えているからです。

––教える側も学び続けることが大事、ということですね。

そのとおりです。スポーツの価値というのは、「競技者としてどれだけ活躍したか」だけではないと私は思っています。引退後に、医学の道に進んだ選手もいます。最近では、世界チャンピオンになった女子柔道家の朝比奈沙羅選手は医学生として勉強をしている。ラグビー界でも、日本代表として長く活躍した福岡堅樹さんは医学の道へ進んでいます。

––企業や教育の現場で活躍されている方もたくさんいますね。

スポーツを通じて、学んだことを社会に還元していく。そして自分の人生を豊かにしていく。そこに、スポーツが持つ究極の目的があるように感じます。そういう世界が広まっていくことが、スポーツ界の発展につながっていくと私は強く思っています。

(前編はこちら)

文・インタビュー/柴谷晋 
写真提供/株式会社 office KOSEI、全日本柔道連盟科学研究部
参考文献/井上康生著『初心 時代を生き抜くための調整術』 (ベースボールマガジン社)