「クスリを辞めて何十年も経つけど、未だにやりたい」

元暴力団組員で、現在は薬物の回復施設「茨城ダルク」を運営する岩井喜代仁という人物がいる。彼は、拙著『虐待された少年はなぜ、事件を起こしたのか』の取材の中で、次のように語っていた。

「経験から言えば、14、5歳でクスリをはじめたヤツは、20代半ばで精神病院行きだ。20代ではじめたヤツならギリギリ30代半ばまで生きられるけど、40代に人生が終わるのは確実だな。結局、死の一歩手前に来て注射器を持てなくなるまで、延々と同じことを続ける。それが薬物依存症の怖さなんだよ」

岩井によれば、これまで茨城ダルクから出ていった者で、その後自ら命を絶ったのは150人を超しているという。1度は更生を志して、回復施設へ行った者ですら、後遺症から抜け出せず、再び覚醒剤に手を染め、自ら命を絶っているのである。岩井自身、かつて覚醒剤依存に苦しんだ経験を持つ人間だ。彼は次のように語っていた。

「俺自身、クスリを止めて何十年も経つけど、未だにやりたいって気持ちが消えない。毎日そんな考えに捕らわれる。1度でもやった人間は『止めた』なんてことは一生言えないんだよ。とにかく、その日やらずに乗り越えることしかできない。それを1日また1日と繰り返していくことだけ。1回でもやったら地獄に逆戻りするだけ。それくらい怖いものなんだ」

何十年も覚醒剤から距離を置き、回復施設のトップを務める人間にすら、ここまで言わせるほど覚醒剤の魔力から逃れるのは困難なのだ。