「衰退途上国」日本の衰退が進めば状況は変わる

興味深いのは、海外から日本の大学に留学する外国の若者たちも、この戦略を使っていることだ。日本社会にはまだまだ外国人差別があるものの、新卒については、多くの企業が日本人か外国人かは区別せずに正社員として採用している。これは欧米と比べても有利な条件なので、賢い外国人留学生は、とりあえず日本の会社に入ってキャリアをスタートさせ、仕事を覚えたら、語学力を活かしてより条件のいい外資系に転職していくのだという。

ここからわかるのは、「最近の日本人は劣化した」というようなオヤジの繰り言には根拠がなく、若者たちは与えられた条件のなかで、リスクに対して最もリターンの大きな選択をしようと合理的に行動していることだ。

明治・大正や終戦直後には、多くの日本人が決死の覚悟でアメリカやブラジルに渡った。これは日本が貧しく、農家の次男や三男には生きていく術がなかったからだ。高度成長期にアメリカの大学に留学する日本人が増えたのは、欧米と日本の差がまだ大きく、海外の知識を日本に持ち込むだけで大きな利益や名声を手にすることができたからだろう。

外的な環境が変われば、それに応じて選択や行動も変わっていく。いまや「衰退途上国」と呼ばれる日本が今後もっと貧乏になって、国内にとどまっていては生きていけないと思うようになれば、グローバルスタンダードの教育を受けた若者たちは積極的にリスクをとって海外を目指すようになるにちがいない。

文/橘玲