家長昭博(川崎フロンターレ)

実力と代表歴がこれほどかけ離れてしまっている選手もなかなかいない。今のJリーグでもっとも巧く、効果的なプレーを繰り出すベテランアタッカー、家長昭博はなんと日本代表戦に3試合しか出場したことがないのだ──それもすべて親善試合の途中出場(3戦で計49分)で、得点もアシストも記録していない。しかし現在の姿を見れば見るほど、これを「縁がなかった」で済ませてしまうのは、あまりにももったいない気がする。

これまでのキャリアで、いくつかボタンの掛け違いがあったのは確かだ。ガンバ大阪の下部組織で育まれ、高校2年生でトップチームに昇格したエリートながら、左利きの天才肌の若手MFは調子にムラがあったし、ケガに苦しんだこともあった。気がつけば、育成時代の同期で誕生日も利き足も同じ本田圭佑(こちらはユースに昇格できなかった)に、大きく差をつけられてしまった時期もあった。

20代の頃にはスペインと韓国にも挑戦。海外ではあまり実りを得られなかったが、20代最後の年に川崎フロンターレに加入してから、技術を追求するクラブの風土が肌に合ったのか、そのパフォーマンスは年を重ねるごとに円熟味を増している。

2018年のJリーグ最優秀選手は今季も熟練の技で観衆を楽しませつつ、結果にも繋げている。本稿執筆時点でJ1の25試合に出場し、8得点と3アシストを記録。また7月20日のパリ・サンジェルマンとの親善試合では、対面したポルトガル代表ヌーノ・メンデスを手玉に取るシーンも見られた。

「まあ相手は遊びやったと思いますし、別になんもないと思います」と試合後の取材エリアで足を止め、家長は淡々と語った。そして世界のトップレベルとの差がどこにあるかと問われると、次のように話した。

「(PSGの選手たちは)真剣勝負のなかにも遊びがあると思うし、それが見ていて楽しかったり、驚きに繋がったり、相手は意表を突かれたりする。僕たちにはまだそんな余裕がないし、楽しませるぐらいの感覚を持てないと、あのレベルまで行けないと思う。そうなれるように、真剣に遊べるように、僕らも頑張っていかないと」

ストイックになるだけでなく、遊び心を持ってプレーすること。まさに現在の家長のプレーから感じられることであり、それは日本代表にも必要な要素ではないだろうか。新戦力を試す時間は確かに限られているが、川崎の右サイドで阿吽の呼吸を見せるSB山根視来は現代表の常連であり、負傷がちな酒井宏樹に代わってレギュラーを掴む可能性もある。そうなれば、家長がクラブと同様に山根の前方に難なく収まるはずだ。

代表の右ウイングの主戦は伊東純也だが、家長にはまた違った魅力がある。伊東の高速の突破が封じられた時、家長なら別のアイデアで敵陣を崩してくれそうな気がする。個人的に今、日本代表で誰よりも見てみたいのは、この36歳のレフティーだ。

取材・文/ 井川洋一 写真/アフロスポーツ