逃れられない町で心の闇は深まり…
令児が暮らす町は、非常にリアルな「地方」の町だ。何代にもわたって続く人間関係の面倒さ、確立しているヒエラルキー、教養や知識のない狭量な大人、それに心を折られる若者たち……本作にはこういった「負の雰囲気」が綿密に描かれている。
そんな町を令児は受け入れるしかなかった。その結果、彼は空っぽになっていった。たしかに中高生ならば、自分のやりたいことがみつからず、気持ちが空虚になることは珍しくもないだろう。ただその多くは学校、バイト、遊びやいろんなコミュニティーで、付き合う人たちが変わると自分の居場所を見つけて、大人になっていく。空虚な感覚はいつしか意識しなくなるものだ。
だが、令児は暮らす場所も付き合う相手も変わらない。下手をすれば生きている限りずっと。高校を卒業すれば、いまよりもっと家族のために生きねばならない。
この町では、これが大人になるということなのだ。
救いのない絶望に足を引っ張られ続ける主人公を筆頭に、他の登場人物たちも闇を抱えている。
幼馴染の秋山朔子は理不尽な実家を出て東京へ行きたいと思っている。もうひとりの幼馴染の峰岸玄は、令児をこき使うなど横暴にふるまっているものの、その裏に異様な執着と心の傷が透けて見える。令児の担任教師の柴沢由里は仕事と退屈な日々に苛立っていた中、令児を心中から救ったことで、歪んだ愛情をぶつけてくるようになる。作家の似非森耕作は、中学の同級生である令児の母親・夕子との間に特別な闇を抱えているようだ。
彼らはそんな心の内を令児に吐露していく。まるで教会で“告解”するように。