蛸との関わりで人との向き合い方に変化

蛸にはほかにも驚かされることがたくさんありました。非常に知能が高く、擬態能力にも長けているので、天敵から身を隠したり、逆に狩りをする際も獲物に合わせて学習しながら、針に糸を通す繊細さと正確さで緻密に戦略的に行動します。2000個もある吸盤ひとつひとつをそれぞれ動かすことができ、触手を1本失ったとしても1週間程で新たに生え、100日ほどで以前と変わらない状態になるなど、運動能力も回復力もすさまじい。

クレイグがはじめて蛸と出会った日に見た奇妙な姿も、海の中で生き抜く知恵からきているものでした。野生の生き物が生存競争のために獲得した能力の高さにただただ感心するばかりです。そこまででも十分すごいのですが、知能は高くとも社会性のない生き物であるはずの蛸が、蛸としてはありえない行動を起こす奇跡的なシーンは忘れられません。
クレイグとの間に、確かに絆が生まれていることを証明するようでした。

クレイグはどんなに蛸が危険な目にあいそうになっても、生態系のバランスを崩さないように、干渉や介入をしないよう心がけてきました。1年近く、来る日も来る日も冷たい海に潜って、蛸の気持ちになり、観察・撮影し続けるのは並大抵の努力ではありません。
その姿勢と日々の努力がクレイグをいつしか自然と調和する人物へと変え、他者や家族との向き合い方も大きく変化させたのです。

私は、人も生態系の一部、そして自然の一部と考えています。非言語でコミュニケーションし、深くつながっていると思うのです。もちろん過干渉や故意の破壊はよくないのですが、変わらないこと、変えないことだけが最良ではなく、ふれあえば変化は起きる。それもまたよりよくなるための1歩であると、この作品をみて改めて実感しました。そして何かと調和したり、理解していくという事は簡単なことではなく、対象に尊敬と配慮をもって溶け込む姿勢と努力が必要なことを学びました。

知的でたくましく、そして献身的な生き物である蛸の魅力に触れ、自然と調和して生きることの大切さに気付かせてくれる映画です。私自身、ヨガやボディケアなどで人と接するとき、そして生きていく上で、今まで以上に、お互いによりよい変化が起きていくように、リスペクトを持って接していきたいなと思います。それを教えてくれた蛸はまさに「先生」と呼べるかも。