ロヒンギャ差別に加担する日本政府
ヌールやモハマドの境遇に、日本も決して無関係ではない。1941年に太平洋戦争が始まると、日本は英国の統治下にあったビルマ(当時)に侵攻し、ラカイン州にもその勢力を広げた。現地で日本軍が仏教徒中心の民兵を組織する一方、英軍はイスラム教徒のゲリラ部隊を編成して偵察や諜報活動に当たらせる。
すると両者の敵対感情はしだいに高まり、お互いの宗教施設を破壊し、住民を殺し合う熾烈な戦闘を繰り広げた。この歴史はイスラム教徒に反感を持つラカイン人の間でいまも語り継がれ、ロヒンギャへの迫害を正当化する根拠のひとつになっている。
さらに日本政府は、現在もロヒンギャ差別に加担する。国連でロヒンギャ問題を巡る決議が採択されるたびに、日本は棄権に回った。中国をけん制するためにミャンマー政府に配慮したと見られるが、その不誠実な対応は国内外から非難されている。
最近では、ミャンマー軍政が設置した統治機関「国家行政評議会」に安倍晋三元首相の国葬を通知。9月27日には、ロヒンギャだけでなくミャンマー市民を弾圧する国軍の関係者が葬儀に参列するかもしれない。
在日ミャンマー人も、友好国だと思っていた日本の裏切りに失望を隠せない。自国の政府が人道に外れた行為をするたびに、私の頭には難民キャンプで5年前の記憶に苦しむヌールとモハマドの姿が浮かぶ。
取材・文・撮影/増保千尋