演じることと書くこと

――普段から、本はたくさん読まれる方ですか?

出来れば、月に1、2冊は読みたいと思っているんですけど、自分のコンディションによっては、まるで読めない、脳が活字を受け付けなくなることがあって(苦笑)。読もうと思って、ずっとカバンの中に入れておいて、気がついたらボロボロになっていたということもあって。そんなときは、本に申し訳ない気持ちになります。

――本を買うときは、タイトルに惹かれて、ですか? それとも、作家さんですか?

ふらっと本屋さんに入って、タイトルとか表紙のデザインで、なんか面白そうと思って買うことが多いです。

――『よだかの片想い』も、そうやって購入された一冊ですか?

『よだかの片想い』とは、運命の出会いでした。

――それって、どういう?

渋谷のヴィレッジヴァンガードの、なぜか、天体のコーナーに、ポツンと一冊だけこの小説が置いてあったんです。それが、なんだかすごく不思議な感じがして。きっと、宮沢賢治の短編小説…容姿の醜さから仲間からも嫌われたよだかが、最後、星に転生するという『よだかの星』を連想した店員さんが、天体コーナーに置いたんだろうなと思うんですけど…私にとっては、それこそがまさに運命の出会いでした。

――それ以前にも、島本理生さんの小説を読んでいた?

いえ。『よだかの片想い』が、島本さんとのファースト・コンタクトです。一気に読み終えて、それからすぐに本屋さんに駆け込んで、ハードカバーから文庫まで島本さんの小説を全部買って、自分の本棚にバンと並べて、端から順に読んでいくという(笑)。
作家さんで大人買いをしたのは、このときが最初で最後です。

「あのとき私は間違いなくアイコでした」松井玲奈が惚れ込んだ恋愛小説が実写化_3

――ご自身も、小説家として2冊、『カモフラージュ』『累々』を出版されていますが。

書くという作業は面白いです。難しいけど、面白い。
ただ…書きはじめてから完成するまでの間、ずっとどこか、ふわふわしている感じがあって。今こうしてインタビューを受けている間も、役者として舞台に立ったり、撮影に臨んでいる間も、常に何かを探しているんですよね。あっ、これってあの場面に使えるなとか、これは面白いから今度使おうとか。
そういう時間も楽しいんですけど、でも…正直、疲れます(笑)。

――2冊から感じられるのは、人の持つ怖さ、優しさ、表の顔、裏の顔、好きと嫌い、欲望、狂気、夢、希望、危うさ、孤独、強さと脆さ…などというキーワードです。

好きというのとは、ビミョーに違うんですけど、人の裏の顔やダークな面というのには、割と興味があります。
私が大好きなディズニー作品にも、光と闇が存在していて。『リトルマーメイド』も、主人公の美しい人魚、アリエルじゃなくて、海の魔女アースラから見たらまた別の物語があるかもしれないじゃないですか。光と闇、どっちにも興味があるし、そうですね、私自身は、その真ん中じゃなくて、ちょっとだけ闇側に立っているんだと思います。

――以前、松井さんが怖いけど、美しいと言われる絵本作家、エドワード・ゴーリーの描く世界が好きとつぶやいた理由が、ちょっとだけ、わかったような気がします(笑)。

ゴーリーの作品は全部、好きです。ただ…………。
母がそういうのを全部、チェックしていて。ゴーリーのことを書いたら、自分で調べたらしく、「子どものころ、あなたにこういう絵本を読ませた覚えはありません」というお叱りの電話がかかってきて(苦笑)。どこで覚えたの?みたいな感じで。SNSにあげるときは、本当に大丈夫か?と、一度確認してからアップするようになりました(笑)。

「あのとき私は間違いなくアイコでした」松井玲奈が惚れ込んだ恋愛小説が実写化_4

©島本理生/集英社 ©2021映画「よだかの片想い」製作委員会


『よだかの片想い』
2022年9月16日(金)より、新宿・武蔵野館ほか全国公開
https://notheroinemovies.com/yodaka/

直木賞作家・島本理生の傑作恋愛小説を映画化。顔の左側にアザがある理系女子大生のアイコの遅い『初恋』を通して成長する女性の内面を瑞々しく描いた作品。主演のアイコを演じるのは、島本作品のファンでもある松井玲奈。共演は、中島渉。監督は、デビュー作品『Dressing up』(2012年)で、第14回TAMA NEW WAVEのグランプリや第25回日本映画プロフェッショナル賞新人監督賞を受賞した新鋭・安川有果。脚本は、城定秀夫。

撮影/大藪達也  取材・文/工藤晋