印象に残っているのは…全部です

――撮影している中で、松井さんご自身が強く印象に残っているシーンを教えていただけますか。

全部です(笑)。

――その中でも、特にここ! というのは?

アイコと、中島渉さん演じる映画監督、飛坂が、初めてぶつかるシーンがあって。飛坂さんが家を出て行った後、アイコが涙を流す流という場面なんですけど、でも、その涙は台本にはなくて、その場でやりとりをしていて、自然に涙が溢れてきたものだったんです。あの瞬間、私は松井玲奈じゃなくて、間違いなく、アイコだったと思います。あの涙は、アイコが流した涙でした。

――自分が松井玲奈なのか、アイコなのか、わからなくなる?

いえ、今回は、そういう混乱はなかったです。もっと、トリッキーな役、理解するのが難しい役のときは、そういう混乱が起こることもあるんですけど、アイコは普通の日常にいる女の子なので。ずっとアイコを走らせながら、同時に、自分として考えるという作業もできていました。

「あのとき私は間違いなくアイコでした」松井玲奈が惚れ込んだ恋愛小説が実写化_2
©島本理生/集英社 ©2021映画「よだかの片想い」製作委員会

――ということは、撮影が終わった今、松井さんの中にアイコは、いない?

そのはずなんですけどね。
自分でも不思議なんですけど、先日、予告を見たときに、撮影期間中、アイコとしてみていたものを、フラッシュバックするように、全部、思い出してしまって。
舞台をやっているときは、最初から最後まで、ずっと入り込んで芝居をしているので、終わった後に、時々、それと似た感覚になることはあるんですけど、映像では、はじめてのことで。それだけ、全身全霊でアイコを演じていたということなので、そこは嬉しかったんですが、もう、出来ないんだ…という寂しさも感じてしまいました。

――そこまで役にこだわったということは、監督とぶつかる場面も多かった?

ふふふっ(笑)。
脚本の段階から、監督とは何度も話をさせていただいて。「どうして、このシーンがないんですか?」とか、思いを全てぶつけて。ひとつ、ひとつ、話し合いを重ねながら撮影していった…という感じですね。はじめてのことばかりだったので、すごくいい勉強をさせていただきました。

――具体的には?
私が思い描くアイコと、監督が思うアイコが違っていて。
例えばあるシーンで、私は、このときのアイコは悲しんでいると思ったのに、監督は、そうじゃない、怒っているんだと思うと。同じセリフなのに、捉え方が正反対なんです。それって、きっと、それぞれの恋愛観や、人と向き合ったときの価値観の違いから生まれてくるものなんだろうなと。

――そういうときは、どうするんですか?

両方やってみて、ですね。監督に言われた通りに演じたことで、思ってもみなかった感情がポンと飛び出すこともあったし、その逆に、「松井さんが言っていた方がすごく素敵でした」と、おっしゃっていただいたこともありましたし…。ここまでセッションしながら、いろんなやり方を試しながら、一本の作品を作り上げたのは、はじめてのことだったので、すごく勉強にもなったし、私にとっては楽しい時間でした。