みずほだけの問題と言えるのか…

「小さなトラブルは発生すると思いますが、システムが新しくなったことにより、それが銀行全体に波及してシステムダウンしてしまった2002年や2011年のような大規模障害は起こりにくいと思います。いわゆる旧行対立についても、今や行員の約7割は統合後に入行した世代で、すでに問題は過去のものになりつつあります」

むしろ問題は、みずほが金融のデジタル化をリードしていけるか否かにあると河浪氏は指摘する。

「すでに金融界はフィンテックの時代に入っています。フィンテックとは、従来の金融サービスとテクノロジーを組み合わせたサービスのこと。みずほはシステム障害があったことで、デジタル化についてはマイナスからのスタートです。それを克服してチャレンジできるかどうかに注目しています」

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一方で、『言うべきことを言わない』風土についてはどうか? 河浪氏は、若返った経営陣のもとで風通しが良くなったというが、「ただし」と続ける。

「みずほ迷走の背景にあるのは、『事なかれ主義』、『減点主義』、『無謬主義』。これらは日本型組織そのものの問題ともいえます。言いたいことを言わずに済ませ、失敗しないことを求め(結果、チャレンジの意欲を失わせ)、間違いに目をつぶり追及しない…。

和を重んじる日本社会の中で、これらを打破していくのは並大抵なことではないでしょう。『言うべきことを言う』ためには、個々人が常に自分を律し、他者を説得するだけの正しさを備える必要があります。私自身、自分に甘く、人に誇れるような立派な人間ではありません。

ですから、『みずほ、迷走の20年』をまとめる作業は、私にみずほの失敗をとがめる資格があるのかという"不愉快な自問"であったように思います」

みずほの失敗が日本型組織の弱点の縮図だとすれば、単にみずほを批判して終わるだけではなく、自分ごととしてとらえ、"不愉快な自問"をする機会にすべきなのかもしれない。

取材・文/鍋田吉郎

『みずほ、迷走の20年』(日経BP 日本経済新聞出版)
河浪 武史
なぜみずほ銀行のATMばかりシステム障害が起きるのか?_5
2022年6月11日
1760円(税込)
文庫単行本(ソフトカバー) 240ページ
ISBN:978-4-296-11375-0
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