工作の失敗と暗殺事件

結局、『茶花女』は「謎の支那映画」として上海でも日本でも終わることができなかった。しかも国内では興行的には失敗、映画雑誌の批評も「この映画に強いて興味を見出すとすれば、作品の出来そのものでなく、こうした作品が生まれ出るようになった製作動機」(飯田心美「外国映画批評『椿姫』「キネマ旬報」一九三八年十一月一日号」)である、などと「文化工作」であることを婉曲に皮肉るものであった。このように『茶花女』は「文化工作」であることが日本・中国双方で仄めかされ波紋を呼んでいた。しかし、そこで終われば未完を含むこの四作は真相の不確かなまま中国映画史から葬られ、一部の映画人の知る秘史で終わったろう。
しかし、一つの暗殺事件が「謎」として終わるはずの上海偽装映画工作を公然化するトリガーとなる。

大東亜共栄圏のクールジャパン――「協働」する文化工作(集英社新書)
大塚英志
日中戦争下、大日本帝国の秘密工作はなぜ露見したのか?_b
2022年3月17日発売
1034円(税込)
新書判/320ページ
ISBN:978-4087212075
【現代日本に偏在する「宣伝工作」と「歴史戦」の起源を辿る】
「クールジャパン」に象徴される各国が競い合うようにおこなっている文化輸出政策。
保守政治家の支持基盤になっている陰謀論者。
政党がメディアや支持者を動員して遂行するSNS工作。
これらの起源は戦時下、大政翼賛会がまんがや映画、小説、アニメを用いておこなったアジアの国々への国家喧伝に見出せる。
宣伝物として用いられる作品を創作者たちが積極的に創り、読者や受け手を戦争に動員する。
その計画の内実と、大東亜共栄圏の形成のために遂行された官民協働の文化工作の全貌を詳らかにしていく。
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写真/f11photo/Shutterstock.com