北朝鮮にも「日本と朝鮮の関係をよくしよう」と命がけでやっている人たちがいる

三上 北朝鮮との交渉が20年間進まなかったのには、政府が何もしなかったということ以外に、支援する側の人たちがちょっと異質なものになってしまった面もありそうですね。今はどちらかというと日本会議(*2)などにシンパシーのあるネトウヨ系の人たちが中心になっているようで……。

*2 1997年に設立された保守系団体で「美しい日本の再建と誇りある国づくりを目指す」として憲法改正などを訴えているが、同会議幹部が「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」などは必要がない、と発言するなど、「戦前回帰を目指している」と批判されている。詳しくは『日本会議 戦前回帰への情念』(山崎雅弘著、集英社新書)などを参照。

有田 そうなんです。そういう人たちの運動になってしまって、それに影響された家族会も非常に政治的な発言をするようになってしまった。たとえば公式の場で拉致問題のスピーチをするときに、「北朝鮮も南朝鮮も息を吐くように平気でウソをつく国だ」みたいなことを言う。でもそれは、絶対言ってはいけないことです。北朝鮮側は全部見ていますから。

救う会ができた当時、蓮池・地村両夫妻は北朝鮮で招待所というところに隔離されて暮らしていたんですが、そこの塀が高くなりました。それは「救う会ができたからだ」と、極秘文書に書いてあります。その後両夫妻とも別の場所に移動させられました。北朝鮮は日本の動きを全部見ているんです。

三上 日本の北朝鮮に対する動きは、筒抜けなんですね?

有田 そう。私は2011年と15年に北朝鮮に行っていろんなことを調べましたが、要するに北朝鮮も日本と同じく人間社会なんですよ。工作員だとか、とんでもない人たちもいますが、「日本と朝鮮の関係をよくしよう」と命がけでやっている人たちもいるんです。

その人たちは言ってました。「有田さん、日本の外務省の人たちも政治家も、失敗しても命を奪われることはないでしょう? 外務省で失敗しても、異動させられるだけですよね? だけど、私たちは自分だけじゃなくて家族の命もかかっているんです」と。そういうことも考えて、日本側も言動には慎重にならないと。

拉致被害者の御家族も、それに協力している救う会の皆さんも、北朝鮮に正当な批判をするのは当然ですが、結局、拉致問題を利用して北朝鮮を崩壊させたい、ということになってしまっている。だから厳しいことばかり言うんです。しかしそれでは、交渉の進展は難しいでしょう。

三上 相手の国を非難するだけの人たちが一定数以上いると、この問題を解決したいと思う普通の人たちは、どんどん引いてしまいますね。その結果、今、集会にも800人くらいしか集まらない?

有田 800人もいないですね。500人いるかどうか。この本にも書きましたが、安倍政権がやってきた拉致問題の方針は、私は間違っていると思います。だから拉致問題は解決しないんです。2012年12月に民主党政権が崩壊して安倍第二次政権が始まって、その直後に家族会や救う会の人たちを集めて、安倍さんが演説しました。そこで「私が政権にいる間に拉致問題を完全に解決する」と言った。でも何もできずに退陣し、その後の菅さんも岸田さんも、何も動いていないのが現状です。

ただ、自民党政権だけじゃなくて民主党政権のときもいろんなことやっていて、どう失敗したかというのも、この本の初めに書いています。9月、小泉訪朝から20周年を迎える前に、この問題の現在地をぜひ知っていただきたいと思っています。


ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会ウェブサイト
http://nomore-okinawasen.org/

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