「拉致問題をちゃんとやってます」という政府の発言は全くウソ
三上 今、おっしゃったように、外交がダメなんですよね。近隣諸国と衝突しない、共に手を結んで歩むための外交が全く見えない。そのことが、今回のこの著書の中でも浮き彫りになっています。拉致問題も、最初は外務省マターであったけれども、それが官邸マターになっていく、そういうことを、私は全然知りませんでした。この本を読んで「こうだったのか」と初めて分かったことがたくさんあり、本当に勉強になりました。有田さんは、今どうして極秘文書を公にする決意をされたんでしょう?
有田 小泉首相が北朝鮮を訪問して、北朝鮮側が「5人生存、8人死亡」と発表をし、5人の拉致被害者の方が日本に戻ってきて、今年の9月でちょうど20年です。でもこの20年、何も進展がないんです。とんでもない話です。だから極秘文書も明らかにして、前に進むしかないと思ったのです。
未帰国の拉致被害者の御両親で生存されている方は横田めぐみさんのお母さんの早紀江さん86歳と、有本恵子さんのお父さんの明弘さん94歳。2年前に横田滋さんが87歳で亡くなって、本当に拉致被害者家族の方にも時間がない。拉致された方たちが北朝鮮で今どうなっているかは分からないですが、やはりお年を召されていくわけで、時間がない。
先日、官房長官が「我々はちゃんと北朝鮮と(交渉を)やっています」という発言をしたのがニュースで流れていましたが、これは全くのウソで、何もやってないんですよ。
三上 「やってる感」はずっと出してますね。
有田 最近は「やってる感」さえなくて、言葉だけです。そういうことがまかり通っている。
政府の極秘文書というのは、北朝鮮から戻ってきた蓮池薫夫妻、地村保志夫妻、それから、曽我ひとみさんの5人に、政府が聞き取り調査をして、2004年にまとめたものです。しかし今まで一切表に出ていませんでした。せっかく重要情報が書かれている資料があり、北朝鮮との交渉に使うべきなのに使われていない。だから私は新聞社と通信社の記者に渡したんですが、書いてくれない。後で分かったんですが、別の新聞社も2014年段階で入手しているのに書いてないんです。
三上 極秘文書を手にしても、どの新聞も記事にしなかったんですか?
有田 批判が怖いんでしょう。
三上 もともとこの文書を「極秘」にしたのは、当時、お子さんを北朝鮮に残して帰国してきた御両親が、自分が話したことによって、子供を取り返すことに障害が起きるじゃないか、という心配があったから「子供たちが帰ってくるまでは明らかにしないでくれ」ということだったんですよね。でも、お子さんたちももう帰ってきているわけで……。
それと、もう1つ。めぐみさんについて、御両親にはとても言えないような、厳しいことが書かれているということ。……でも、もう、伝わったはずですよね。だから、何年かたってからは、直接の御家族たちへの心配、という意味では、極秘にする必要はなくなったということでよろしいですか?
有田 そのとおりです。この極秘文書の中には拉致被害者が全部で何人いるのか、というヒントもあります。それから、横田めぐみさんや有本恵子さん、田口八重子さんたち拉致被害者の皆さんが北朝鮮でどのような暮らしをしていたかということに関しては、北朝鮮当局担当者が年に1、2回、資料を残しているんです。だから「ちゃんと、その文書を出せ」という交渉を北朝鮮とやれば、その後の横田めぐみさんがどうなっているのかとか、いろんなことが分かってくるはずなんです。
三上 外交交渉で使える情報がいっぱい入っているんですね。
有田 そうです。それなのに、この20年間、日本政府は何もやっていない。だから「この文書はもう明らかにして日朝交渉に使わなきゃいけない」と問題提起することが、この本を出した大きな目的の1つなんです。