日本的な音楽になった2つの理由
2010年2月に36歳の若さで亡くなったNujabes(東京出身、日本人)は、90年代半ばからD J、レコード店主、レーベル主宰、そしてプロデューサーとして活躍した。Lo-fiヒップホップの源流である「ジャジー・ヒップホップ」と呼ばれた彼の音楽が、マニア内での人気を超えて世界的に注目されたきっかけは、渡辺信一郎が監督したアニメ『サムライチャンプルー』(2004年)の劇伴音楽や主題歌などを担当したことだった。
このアニメ自体が海外では幾度も再放送され、視聴者とのタッチポイント自体が多かったこと。Nujabesに依頼した渡辺信一郎がその音楽も含めて海外で高く評価されていたアニメ『カウボーイビバップ』の監督であること。いささか逆説的だが、Nujabesという名前が無国籍風でどの国の人からも先入観なくまず聴かれたこと。彼の音楽の持つ絶妙な切なさ、温かい音質そのものが支持されたこと。そういったことが、Nujabesに影響されてのちにLo-fiヒップホップを牽引していく若いプロデューサーやトラックメイカー、そしてファンたちを世界中に生んだ理由だろう。
Lo-fiヒップホップが日本と結び付けられる理由は、もう一つ考えられる。それは、このジャンルの音楽を象徴するものとして、日本アニメ風の画像や映像が常に使われてきたことだ。
例えば、YouTubeで現在1110万人ものチャンネル登録者数を持つアカウントの『Lofi Girl』。Lo-fiヒップホップといえばここ、と言われるくらい有名なこのアカウントは、ChildCow名義で2017年から毎日(文字通り24時間365日!)稼働するLofiヒップホップのライブストリーム・チャンネルをスタート、2021年にLofi Girl名義に改名して現在でも人気だ。
そのチャンネルの一つ『lofi hip hop radio - beats to relax/study to』で使われ続けるアニメ画像はコロンビア出身フランス在住のアニメーター/デザイナー、Juan Pablo Machadoによるもの。緑のプルオーバーを着て白いヘッドフォンをつけた、どこかスタジオジブリ風のこの女の子のキャラクターこそ、Lo-fiヒップホップを象徴する画像として、界隈ではあまりにも有名だ。
オランダ発のYouTubeアカウント『ChillHopMusic』(登録者数327万人)のライブストリーム・チャンネルでも、日本的なアライグマのアニメが動く。
他にも例を挙げたらきりがないほど、Lo-fi ヒップホップに関連するYouTubeのチャンネルもプレイリストのカバーも、日本のアニメ風の画像や映像が使われてきている。