特に荒れていると言われる地区に一流メゾンのアトリエがある事実。同エリアの子供たちに、手に職をつけ、一流のお針子への門戸を開きたい

ディオールの全面協力を得た映画『オートクチュール』。魔法のようなドレスを生み出すお針子の世界と移民社会_14
エステルが暮らすのはパリ郊外の団地

──映画の中では、移民社会のフランスを投影して、それぞれのルーツや宗教などバックグラウンドの違いに対して、日本人からするとちょっと驚くようなシニカルなジョークでお互い揶揄するような描写もあります。ああいう言い合いを受け入れられている職場の土壌の豊かさに驚いたのですが、オートクチュールの世界は実際、多国籍化が進んでのあの描写ですか?

「実をいうと、オートクチュールの世界で多国籍化が、多様性が進んでいるかと言うと、全く進んでいません。なぜかというと、フランスの社会はどちらかと言うと、自分たちの生まれた出自をそのまま次の世代に再複製する流れが強いから。違う階層に職場の門戸が開かれるというのはとても難しい、それがフランス社会の厳しい一面でもあります。

それではなぜ、ジャドのような背景の女性がオートクチュールの世界に入るという物語を作ったのか。この映画の中では、ジャドが自嘲気味に自分たちは93のエリアの出身だからという言い方をしますよね。93というのは、セーヌ=サン=ドニ県、イル=ド=フランス地域圏、つまりはパリ郊外の特に荒れていると言われている地域のコードなんですが、実はその地域に、ルイ・ヴィトン、シャネル、エルメス、ディオールなどのオートクチュールのブランドがアトリエを構えているんですね。

なので私は、その地域に暮らしている子どもたちに、将来なんとか、オートクチュールのアトリエで一人前の職人として雇用されるような人材を輩出したいという思いでこの映画を製作し、そして、先ほどのルイ・ヴィトンやディオールの大株主であるアルノーさんと一緒に、93エリアに住む子供たちにアトリエで働けるように招聘するプログラムを今、一緒に模索して提出しています。お針子として一人前になるのには少なくとも7年はかかると言われていて、それまではお給料も悪いんですけど、何とか子供たちに、手に職をつけさせたいと思っています。難しい現実であるのは事実ですが」

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──なるほど、つまり映画のジャドは、ちょっと先の未来を暗示する、みんなに希望を与える存在なんですね。

「丁度、今、やり取りしている間にも、今度、この『オートクチュール』の上映会をこの93エリアでやるので、宣伝してくださいとメールが届いたところです。こういう動きがとっても大切なんですよね。エステルがジャドに言い続けたように、子どもたちに、あなたの未来に対して、社会の窓が開いているというメッセージを伝え続けること、知らせることはとても大切だと思っています」

オートクチュール

ディオールの全面協力を得た映画『オートクチュール』。魔法のようなドレスを生み出すお針子の世界と移民社会_19

引退を間近に控えたクリスチャン ディオールのオートクチュール部門を統括するエステル(ナタリー・バイ)は、窃盗を繰り返しながらその日暮らしの生活を送るジャド(リナ・クードリ)にバッグを盗まれたことを契機に、彼女の指先の器用さを見抜き、自身の後継者として育てる決意をする。

ディオール(DIOR)が全面協力をし、専属のクチュリエールがアドバイザーとして参加。初代バージャケットや直筆のスケッチ画など、貴重なアーカイブ作品がふんだんに登場する。エステル役はフランスを代表する大女優ナタリー・バイ。ジャド役は『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』など話題作が続く注目株のリナ・クードリ。境遇がまるで違う二人の女性が、疑似の母と娘のように心を通わせ、一人前の職人へとなっていく過程を見せていく。

出演:ナタリー・バイ、リナ・クードリ、パスカル・アルビロ、クロード・ペロン、ソマヤ・ボークム、アダム・ベッサ、クロチルド・クロほか

2021年製作/100分/G/フランス
原題:Haute Couture
配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム

新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、 Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開中

© PHOTO DE ROGER DO MINH

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