いかにして1980年代の状況を現代に置き換えたか?

100年前に作られたNYの地下システムに暮らす母娘の物語〜映画『きっと地上には満天の星』_2
© 2020 Topside Productions, LLC.All Rights Reserved. 

廃線となった地下トンネル内に、何千人もの人々が暮らしていたのは1980年代のこと。今では退去させられ、地上のホームレスと共に、支援住宅やホームレスシェルターで暮らしているという(でも、今でも息をひそめて地下に暮らす人はいそうな気がする)。

1980年代後半から毎年NYを訪れ、1999年から1年間暮らしたことがある筆者は、80年代当時の地下鉄をよく覚えているが、車両の外側はほとんどグラフィティ・アートで埋め尽くされ、ホームの壁なども同様だった。筆者のようにグラフィティを“アート”と認識して楽しんでいた者は結構いたし、グラフィティ・アートの領域から本当のアーティストになった者もいた。ただし、ガキどもの落書きとみなす大人も多く、記憶ではそれらは1990年代の前半にはきれいに消されてしまった。と同時に、夜は危険という評判だったNYの健全化が市当局によって推し進められた。

共に1990年生まれのセリーヌとローガンは、2010年にニューヨーク大学の同級生としてかの地に暮らし始めたというから、NYの危険な時代は知らないはず。どうやってリサーチして、本作の構成を固めていったのだろうか?

100年前に作られたNYの地下システムに暮らす母娘の物語〜映画『きっと地上には満天の星』_3
左からリトル役のザイラ・ファーマー、ローガン・ジョージ監督、母親役を兼任したセリーヌ・ヘルド監督
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セリーヌ ジェニファー・トスの『モグラびとニューヨーク地下生活者たち』など、その時代の地下コミュニティを描写した3冊のルポルタージュを読んだこと。それと、私が学生時代にソーシャルワーカーのバイトをしていて、家がなくて郵便物のアドレスとして学校の住所を使っていた子どもと知り合ったことがきっかけです。万華鏡のように、それらのピースを繋ぎ合わせて物語を作りました。3冊の本はすべて80年代の話なので、それを現代の物語として創作する必要があったんです。

ー彼らは、そのために元グラフィティ・アーティストだったクリス・ペイプをテクニカル・コンサルタントとして雇い、撮影場所に選んだ地下トンネルにグラフィティを再現したという。