地下鉄を使用したシーンの難しさ

100年前に作られたNYの地下システムに暮らす母娘の物語〜映画『きっと地上には満天の星』_4
© 2020 Topside Productions, LLC.All Rights Reserved. 

ーNYは早くからフィルムコミッション(FC)が発達していて、撮影には協力的な街だが、それでも手持ちカメラで走り回る地下鉄のシーンの撮影は大変だったのではないだろうか?

セリーヌ (リトルとはぐれて)地下鉄の駅から駅へと私が泣きながら走るシーンは6夜かけて撮影したんです。走って反対側のホームへ行って電車に飛び乗るシーンは、乗り遅れてしまうと次の電車まで30分も待たなくちゃならなくて。冬の寒い時期だったから待つだけで大変でした。

ーちなみに、撮影許可はFCが取ってくれるものの、MTAでの撮影は1日当たり10万ドルかかるという。低予算のインディペンデント映画にとっては大変だったはずだ。そしてセリーヌは俳優として演じる役割もあるから、撮影中のコミュニケーションも難しかったのではないだろうか?

ローガン 共同監督として僕たちはすべてをシェアしてやっていたけど、セリーヌが演技をしているとき、小さなイヤーピースを付けてもらって無線で僕とコミュニケーションを取ったんだ。彼女はこの映画で誰よりもよく働いてくれたし、子ども相手で演技をするのはとても大変だったと思う。エモーショナルでタフな役柄だったけど、驚くべき仕事をしてくれた。

ー大人の俳優はみな台詞を頭に入れて撮影に挑んだものの、子役のザイラはさすがに台本通りというわけにはいかず、臨機応変にアドリブで会話することもあったという。

地下で育った子どもにとって本当の幸せとは何なのか?

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ー母親と一緒に初めて地上に出たリトルは、あまりの眩しさに思わず両目をつむる。薄暗い地下での生活では、ほのかに差し込んでくる明かりから地上のことを想像するだけだったからだ。そんなリトルとはぐれてしまった母親は、娘を必死に探す中で、最後にある大きな決断を下す。それは娘にとっての一番の幸せとは何なのかを自問自答して導き出したもの。

セリーヌ リサーチ段階で、当局から保護者としての責任を果たせないと判断されて、子どもと暮らすことを諦めざるを得なかった母親たちにインタビューしました。

ローガン 当局に子どもを渡してしまうと、その後、子どもに会えるチャンスは5割あるかないかくらい。映画の最後に彼女が下す決断というのは、キャラクターがその決断をできるだけ、映画の中で成長したとも言えると思います。

ー子どもを産み、育てるには、十分な栄養や安全を与えるだけでは足りず、医療や教育など人として生きていく上で必要となるさまざまな事を担保しなければならない。その責任の重さを痛感する母親の選択は、見るものに大きな余韻を残す。