「表現に携わっていない人間が、もうけを取っている」

しかし、チャート首位から陥落した最大の要因は、達郎氏がデジタル配信やサブスクリプションへの音源提供を認めていない点だろう。少し前のインタビューでも、「表現に携わってない人間が自由に曲をばらまいて、そのもうけを取っている」と苦言を呈し、自分は「おそらく(配信は)死ぬまでやらない」とコメントしているほどなのだ。

“音楽制作とマーケティングは別モノ”という考えには、納得させられるが、チャート・アクションに影響が出てしまうことは否めない。

何故なら今のサブスクや無料動画配信は、セールス云々よりプロモーション・ツールとしての役割が大きいからだ。当人が好むと好まざるとに関わらず、それが現在の音楽シーンの潮流である。

少し前、今のポップ・ミュージックには「ギター・ソロは不要」「最初の15秒が勝負」という分析が取り沙汰された。かつて一世を風靡した大物ミュージシャンやプロデューサーも一部これに同調し、厳しい時代であることを印象づけたが、山下達郎は、そうした動きに迎合しない。

自分が納得できなければ、一人でも抗う。それは時流を無視しているのではなく、彼なりの関わり方があるから。

「おそらく(配信は)死ぬまでやらない」69歳、山下達郎のブレない矜持_3
初期名盤『SPACY』と『GO AHEAD』。2枚ともポップアート・デザイナー、ペーター佐藤による

たとえばサブスクは解禁しなくても、グローバル・チャートには常に気を配り、時代の音像・空気感を自作曲に取り込んでいく。既発シングルをリミックスしてアルバムに収録したのが、その好例だろう。

「実績にあぐらをかいたら、すぐに取り残される」というそのセリフは、70年代の契約終了の危機から今の地位を築いた彼のサバイバル・メソッド。

その頑固さ、まったくブレない姿勢に半ば呆れつつも、そう言い切って実践しているのは、ベテラン多しと言えども氏の他にいない。だから感服させられるし、その動きに期待を寄せてしまうのだ。

昨今のシティポップ・ブームでは、妻である竹内まりやと共に祭り上げられている存在だが、本人は「40年前に言って欲しかった」と軽く受け流す。

これは、ずっと風化しない、普遍性のある音楽を作り続けてきた自負のはずだ。だから新作が呆気なくチャート首位を明け渡しても、きっと当人は何処吹く風だろう。

アルバムの中身を紹介しよう。夢を持つ若者を後押しする「人力飛行機」、ウクライナ侵攻の勃発で各国語のリリック・ヴィデオが作られたメッセージ・ソング「OPPRESSION BLUES(弾圧のブルース)」では、デビュー・バンドだったシュガー・ベイブ時代のドラマー、上原ユカリがリズムを固める。

前者ではツアー・メンバー、佐橋佳幸のスライド・ギターも活躍。70年代に返ったようなシンプルさが、原点回帰を想起させる。社会や若い世代にメッセージは送るが、自身の音楽は基本的に同世代へ向けて発信する、そのスタンスも崩さない。