FRBは景気を“壊し”にきている

――過去にも米国が高インフレに襲われた時期がありましたが、当時のFRBはどういう政策を打って切り抜けを図ったのですか?

2022年5月末にバイデン大統領とパウエルFRB議長の会談が持たれましたが、バイデン大統領は「インフレをなんとかしてほしい」と、ことのほか強い調子でパウエル議長に要請したと言われています。

これについて、いまから40年以上も前の1981年に行われた、レーガン大統領とアラン・ボルカーFRB議長の会談にたとえる米経済メディアが多かったのですが、その当時の米国のインフレは二桁、それも15%台にまで上昇していました。

ボルカーFRB議長は、民間銀行がFRBに預ける準備金の額を(間接的にではなく)直接引き上げることによって、FRBが通貨量を直接コントロールする政策に変更しました。つまり、金利にさわらずに金利を上げるという剛腕をふるったのですね。

すると10%半ばだった金利は81年後半には20%を超えました。空前の高金利にたまらず、米国の景気はハードクラッシュ、ハードランディングしたのです。株価は暴落しましたが、同時にインフレも収まり、CPI上昇率は3%台にまで落ちました。

ボルカー氏が歴代のFRB議長のなかでも特に英雄視されている理由は、稀代のインフレ・ファイターであったからですが、現在のパウエル議長がボルカー氏のように大胆な政策を敷くことはできないでしょう。

なぜなら、いまはゼロ金利から金利が1%台に上がっただけで、米国株がこんなに下がっているからです。仮にボルカー時代のごとく金利20%にすれば、その翌日に米国経済は完全に吹っ飛びます。

世界的なインフレと株価暴落。「エブリシング・バブルの崩壊」が始まった!_1
エミン・ユルマズ氏  撮影/堀田力丸
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それではパウエル議長率いる現在のFRBは、今後、政策金利をどの程度まで上げるつもりなのでしょうか。私は3%が目途だと読んでいます。

9月あたりにFRBが引き締めをやめるのではないかとする、市場のいわば根拠に乏しい期待から6月の初めには株価が少しあがりつつあったのですが、6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.75%の利上げが決定されると、サプライズだったこともあり、米国株価は暴落しました。

加えて、今後も利上げが続く見通しも発表されました。インフレが収まる兆候はありません。先ほど述べたように、供給問題はそう簡単に解決しないのですから……。

2022年後半での引き締め中止を期待する人たちは、米国の景気が悪化するから、経済が減速するからFRBはそうするのだと勝手に思っていたのでしょうが、その期待は裏切られました。いまはとにかく需要を殺さないといけない、景気を冷やさないといけない。それをしなければインフレは収まらないのですから。

インフレとは厄介なもので、いったんインフレスパイラルに入ってしまうと、最悪の場合にはトルコのようなハイパーインフレに向かってしまう。それを知悉するFRBがインフレの抑制にフォーカスしたことは無理もないことなのです。

ただし、インフレ抑制をして景気をソフトランディングさせた成功例は過去にあまり見当たりません。引き締めのサイクルに突入して景気がハードランニングしなかったケースは、過去10回のうち2回しかありませんでした。(1965年と1994年)

ちなみに、戦後に米国史上で失業率が二桁を記録したのは先に紹介したボルカーが登場して辣腕をふるった1982年のリセッション時とコロナ禍の2020年の2回のみ。

このところのFRBの動きを見ると、今回はとにかくインフレ抑制に邁進し、景気がハードランディングして失業率がある程度上昇しても致し方ないと覚悟を決めているように、私には見えます。

繰り返しになりますが、FRBは景気を壊しにきているわけです。これをしなければ、インフレが収まらないとFRBは確信しているのだと、私は捉えています。