「試合序盤、早いカウント」でのホームラン
たとえばカウント別でのホームラン。29本中最も多い5本が、1ストライク1ボールからのものだ。続けて0-0、0-1がそれぞれ3本と4本。つまり29本のうち12本が初球から3球目までに打っているホームランなのだ。
イニング別で見ると、1回から4回までに18本打っている。打席でいえば第1打席、第2打席でそれぞれ9本打っていた。試合の序盤、それも早いカウントからのホームランが多いというのは、ハッキリいって“4番らしくない”といえるだろう。
4番といえば試合を決めるような試合終盤での決勝ホームランなどをイメージしがちだが、山川は試合の序盤で先制したり、あるいはリードされていたところ同点に追いつくなど、チームを勢いに乗せるホームランを放つ。そんな4番バッターなのだ。これは近年のどんなホームランバッターとも異なるタイプだ。
ちなみに、「ホームラン率」(1本のホームランを打つために、何打数要したかを表していてるもの。打数を本塁打で割った数字)でみると、山川は9.31(270打数÷29本)。つまり約9打数で1本打っている計算になる。
パ・リーグでホームラン2位の楽天・浅村栄斗が19.70(335÷17)。セ・リーグで33本打っているヤクルト・村上宗隆ですら9.51(314÷33)とわずかながら及ばない。いかに山川がどの打席でもホームランを狙っているかがわかる指標だ。
ただし、こうした傾向が出ているのに、なぜ相手バッテリーはその逆を突いていかないのか、という疑問が浮かぶ。配球でいえば、例えば初球のストレートから狙ってくるとわかっているなら、いきなりフォークから入ってもいい。
内角高めを苦手にしているようだから、外角低めにフォークを落として空振りを誘うなどしてカウントを稼ぎ、最後、内角高めに投げ込めば、ホームラン含めヒットを打たれる確率は極めて低い。苦手な球種にカーブがあるから、その連投でもいい。
それでも投手からすれば、ひとつ間違えばスタンドインされてしまうという恐怖感があるのだろう。だから、どんな打者以上に慎重に、丁寧に投げなければいけない。
だが、そう思うことで不必要なプレッシャーが生まれ、かえってキレのないボールになってしまったり、制球を乱すこともあるのだろう。それを「いただきます!」といわんばかりにフルスイングしてくるのが山川というわけだ。
データや傾向からはいくらでも対策が出来そうに見える。だが、そんなデータなどお構いなしとばかりにスタンドインさせてしまう。それが山川穂高という打者の“魅力”なのだろう。(文中の記録は7月24日現在)
構成/木村公一 写真/小池義弘