幸せは人生の目的ではない
現代社会で幸せを得ることはかなりむずかしく、逆に幸せへの期待がプレッシャーになる。
たとえ幸せを得られたとしても、その幸せはすぐ消えてしまう。ここまでのハンセン氏の話をまとめるとこうなる。
いま世界では、ウェルビーング(Well-being)の考えが広まっている。この言葉は、1946年の世界保健機関(WHO)憲章草案で、「健康」を定義するなかで用いられたもの。ウェルビーングそのものの定義はいろいろと言われているが、持続的な幸福と説明されることが多い。
国連の持続可能な開発目標(SDGs)のゴール年は2030年。ポストSDGsの新たな世界目標を有識者たちが考えているなかで、ウェルビーングを推す声もあるという。
だが、ハンセン氏の話からすると、幸福を想起させるウェルビーングをゴールに掲げた世界は、うまく進んでいけるのだろうかと疑問符がつく。世界中の人たちが新たなゴールとして示された幸福のかたちを強く意識し始め、自分の幸福と他人の幸福をいまより比べるようになり、みんながプレッシャーや諦めを感じるようになりはしないだろうか。
幸福を実現できた人は、さらに脳の働きによって新たな行動を動機づけされ、幸福の過度な追求に走ることにならないだろうか。
「幸せとは、人との関係性のなかで生じる副産物なのだと私は考えています。幸せはゴールにはなりません」
ハンセン氏は、こう言い切った。
#1 『スマホ脳』のハンセン氏が語る「不安もうつも生き延びるために必要なこと」
取材・文/漆原次郎 通訳/久山葉子