日本にはない解決制度

このようにエンタテインメント業界内部でも、権利関係が複雑に入り組んでいるため、エンタテインメント法を扱う弁護士の仕事も細分化されています。前述のとおり労使関係・ギルドを専門に扱う弁護士もいれば、音楽分野のみを扱う弁護士もいて、ざっくりとした「エンタメ・ロイヤー」という言葉を使うことに躊躇いを感じるほどです。また、紛争が起きた場合には、JAMS(Judicial Arbitration and Mediation Services, Inc.司法仲裁調停サービス)と呼ばれる仲裁機関で、エンタテインメントを専門とする仲裁人により解決されることも多くあります。

ちなみに日本の場合、そもそも紛争まで至るケースが少ないものの、紛争に至った場合でも、多くのケースが裁判所で、通常の訴訟と同様に民事部又は知的財産部に係属することになります。

ここまで読んで、「アメリカのショービジネスって、権利権利って面倒くさい世界だなあ」と、うんざりされた方もいらっしゃるかもしれません。たしかに私も、弁護士としての立場を離れた一人のファンとしては、細かい権利義務のせめぎ合いについて何百ページもテキストで勉強することに、若干幻想を砕かれたような気持ちになったこともありました。

基本合意書が800ページ! ハリウッドにおける最新セクハラ対策_5
留学中に使用したテキストの一部(撮影:筆者)