――そもそも自律神経とは?

自律神経の最大の目的は、脳へ酸素と栄養を安定供給することです。生物にとって脳は最も大切な器官であり、体の各器官は栄養と酸素を脳へ供給する部品にすぎません。自律神経は、脳を守るため休むことなく体の各器官に指令を出し続けています。その結果、環境負荷が強いほど指令が煩雑になり、自律神経はオーバーヒートしやすくなります。

――エアコンをつけて室温を涼しくすれば、自律神経は疲れない?

はい。脳は最も発熱しやすくのぼせやすいのです。なので脳は常に冷やす必要があり、特に自律神経の中枢は鼻から吸う空気を涼しくして空冷式に冷やすのが最も有効な手段です。だから就寝中もエアコンはつけっぱなしにして、朝までこの室温を保っておくべきです。

脳の快適温度は22~24度。専門家が教える熱帯夜のエアコン設定の最適解_2

――しかし、節電が叫ばれていますね。

睡眠とは「質×時間」。たとえば質の良い睡眠では6時間睡眠で回復できる人も、室温28℃で眠って睡眠の質を悪くすると8時間の睡眠が必要になる。結局、脳と体に健康被害を与えるだけでなく電力消費量もむしろ増えてしまいます。

――かつては「エアコンをつけて寝ると体を壊す」と言われていました。

昔は夏の寝具にタオルケットを使う文化があったことが関係していたと思います。エアコンのない環境では、汗を蒸発させるタオルケットがよかったわけです。ただ、エアコンのない時代の平均寿命はせいぜい60歳くらいでした。エアコンの普及で平均寿命は飛躍的に伸びましたが、タオルケットのままでは体が冷えてしまいます。その結果、血流が悪くなったり、関節がかたくなってクーラー病を発症してしまうんです。

――エアコンを使いつつ、クーラー病を防ぐには?

脳の快適温度は、人類共通に22~24℃が最適であることがわかっています。しかし、体の快適温度は筋肉量に比例するので、平均的な日本人では22~24℃では体が寒さに耐えることができません。つまり、日本人では多くの場合、脳の快適温度と体の快適温度に乖離があるのです。

一方、平均的に筋肉量の多い欧米人は体の快適温度と脳の快適温度が一致することが多く、室温22~24℃が快適で健康的とされています。実際、日本人にとって肌寒い気温でも、欧米人はTシャツ1枚で平気で過ごしていたりするイメージがあるかと思います。

筋肉体質の欧米人は、平均的な日本人から見ると常に分厚いセーターを1枚羽織っているようなもの。ゆえに、日本人は、脳を涼しく保ってうえで、睡眠中、体を冷やさないよう夏でも掛け布団でしっかり体を温めるのがベストと言えます。

――男性にとってのエアコンの適温は女性には寒い、みたいな現象がありますが、あれも筋肉量の差が原因だったんですね。

はい。ただ、体は脳を守るためにあるのですから、体ではなく脳にとって快適な温度を優先すべきです。26℃を超える環境が仮に体にとって快適であっても、脳の疲労は蓄積することが示されています。