かつて、こんなことがあった。ある野球部員の担任から聞いた話だ。
「あの子、いつも黒板をキレイに消してくれるんです」
岡田はその生徒に伝えた。
「担任の先生が褒めとったわ。必ず、野球にも生きるわ」
グラウンドでは見えない、生徒の心に触れた気がした。そうやって、生徒の素顔を知ろうと努めてきた。
「組織づくりをする上で、生徒とコミュニケーションをどうやって取るか。最近はできるだけ、しゃべらせるようにしています。担任の先生の情報で、こんなことを注意されているとかも、すぐに分かる。その子のことを知る上ではグラウンドだけでは分かりません」
生徒との面談を重視し、履正社では11、12月に実施。人を動かすためには、まず人を知ることだ。名将は頭ごなしに押しつけず、生徒と意思疎通を図ろうとしていた。
打力向上のために伝えたメッセージ
岡田は就任前の3月21日、東洋大姫路ナインが出場したセンバツの高知戦を見た。6安打にとどまり、劣勢を跳ね返せなかった。2ー4で初戦敗退。非力な打線がウイークポイントなのは明らかだった。
「打つ以前に、そもそも振ることがなかなかできなかった。打てなかったらどうしようという不安を払拭しないといけないと」
だからこそ、ナインには就任当初こう伝えた。
「27球で終わってもいい」
岡田にその真意を聞いた。
「基本は1球目から振っていくことです。3球で3アウトチェンジになっても私は何も言わないようにしている」
打力アップの初期段階として、すべて初球打ちを容認した。そこから、打順に応じて初球を見送る大切さなど、考え方のレベルを上げて説明していく。
またチームには三振を恐れる雰囲気があった。だから、こうも言った。
「空振り三振も、ピッチャーゴロやレフトフライと同じアウトやろ」
攻めた結果の失敗ならとがめない。とにかくミスを恐れる気持ちをなくそうとした。6月、学校は6カ所で打撃練習ができる室内練習場を新設した。弱点の克服に向け、練習環境も整えた。