生きたままの撮影にこだわった理由
その図鑑は『学研の図鑑LIVE 昆虫 新版』。全316ページ・2420円(税込み)で、今年6月23日に学研プラス社より発売された。図鑑・辞典編集室図鑑チームの統括編集長を務める牧野嘉文さんは、「最初の撮り下ろしが2021年1月で、最後の1枚が今年の4月。間に合うか心配で胃が痛くなりましたよ」と、笑う。
そもそも全ての昆虫を生きたまま撮り下ろすというのは、図鑑の総監修を務める九州大学総合研究博物館准教授の丸山宗利さんのアイデアだった。その理由をこう語る。
「今までの昆虫図鑑というのは、標本を撮影したものがほとんどでした。でもやっぱり生きたままの姿の方が綺麗だよね、というのが一つ。二つ目は子どもが採った昆虫を図鑑で調べるとき、標本にしたりせずそのままの状態で見るわけです。だから図鑑にも生きたままの状態で載っているべきではないかと考えました」
生きたままの写真と標本写真がどれくらい違うのか、実物を比較しよう。マルタンヤンマの写真である。
左の生きたままのマルタンヤンマの方が胴体や複眼の色が鮮やかで、右の標本写真は全体的に色がくすんでいる。昆虫にもよるが、標本写真の昆虫の色の劣化は避けられない。
だから「生きたままの写真が絶対に良い」という丸山さんの主張はわかる。とはいうものの、実際そんなことは可能なのか、製作の現場でためらいはなかったのか。牧野さんが振り返る。
「まずお金がべらぼうにかかる、とは考えましたね(笑)。しかも学習用図鑑の価格帯は低いですから、専門書のような価格にはできない。でも図鑑は何年もかけて売ってコストを償却していくものですから、その点で勝負できると考えました」