『ミリオンダラー・ベイビー』で受けた衝撃

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左から演出中のポール・トーマス・アンダーソン監督、アラナ役のアラナ・ハイム、ゲイリー役のクーパー・ホフマン。主演ふたりも映画初出演。ちなみにクーパー・ホフマンは監督の盟友で、今は亡きフィリップ・シーモア・ホフマンの息子
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――現場は、どんな雰囲気だったのでしょうか?

キミコは強く凛としたキャラクターなので、監督からは「アラナから目を離さないで」と言われました。初対面の相手に対していきなり、全く目を逸らさずじっと見る……というお芝居をしていたら、そのシーンの共演者である主演のアラナ・ハイムさんとクーパー・ホフマンさんの笑いが止まらなくなってしまって。監督自身も笑ってしまい、クーパーさんに「監督は笑っちゃダメだよ!」と言われてました(笑)。

アラナさんもクーパーさんも、監督とは家族ぐるみで付き合いがあるので、本当にあたたかい雰囲気の現場でしたし、私に対するリスペクトも感じました。

――共演者の方とお話しされたりしましたか?

アラナさんがやってらっしゃる3姉妹のバンド、Haim(ハイム)のツアーの話をしたりしてました。バンドのメンバーはみなさん、ドラムとギターができるのですごいですよね。あと、アラナのお姉さんたち、エスティさんとダニエルさんも映画に出演していて、私のシーンの本番日にも現場に来ていたんです。撮影の間は話しかけることが叶いませんでしたが、プレミア上映後にはエスティさんのほうから「あなたに会いたかったー!」と言っていただき、一緒に写真を撮ったりしました。また、ダニエルさんは私も通っていたロサンゼルス・バレー・カレッジで勉強したことがあったそうで、音楽の話で盛り上がりました。

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――渡米したのは、2011年、20代後半のときだそうですね。

3月11日に東日本大震災があり、命の大切さと生き方を改めて真剣に見つめ直しました。そして「今好きなことをやっていこう」と強く思いました。同年5月にロサンゼルスまで行き、それまで準備してきたアーティストビザを取得するための資料を現地の移民弁護士にすべて見せたところ、ビザを取得する資格はありそうだと判断していただき、渡米を決意しました。

――日本ではミュージカルを中心に、舞台や時代劇などに出演されていたとのことですが、ハリウッドで活躍したいと思うようになったきっかけは?

ミュージカルを中心に学んだ短大卒業後、演技スクールであるアップスアカデミーでアメリカ式の演技法を学び始めました。主宰の奈良橋陽子氏はハリウッド映画のキャスティングディレクターでもあったので、ハリウッド映画をよく見るようになり、憧れを抱くようになりました。

そんなとき、都内の映画館で『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)を見たんですね。30代の女性がどうにか夢を叶えるために、先生に私を指導してくれと頼み込む、熱い情熱のストーリーに胸を打たれました。ヒラリー・スワンクのリアリティを追求した演技も素晴らしく、ああいう演技がやってみたい、ロサンゼルスへ行きたいと具体的に考え始めるようになりました。

最初はどこまで本気なのか自分でもわからなかったけれど、ここまで続けてきて、演じることへの情熱が本物だったことに改めて喜びを感じています。

年齢に関係なく、フェアにチャンスが与えられる

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――英語はどのようにして学習を?

日本にいたときにも、もちろん勉強はしていたのですが、はっきり言って優等生とは言えなかったですね(笑)。渡米して、ロサンゼルス・バレー・カレッジで3年間、学生生活を送ったことが大きいと思います。それからウエイトレスなどのアルバイトでも、ずいぶんと鍛えられました。

――ダニエル・ハイムさんも通われていたという学校ですね。そこでは主に何を学ばれたのでしょうか?

2016年から2018年まで、音楽学科でアプライプログラムという特別なプログラムで歌を学びました。ミュージカルに必要なクラシックの発声を中心に、ミュージカルの曲を学びました。また、音楽理論も学び作曲を経験したりも。この学校は、プログラムに入っていなくても単発でクラスを取ることが可能なので、卒業後も単発で少しクラスを取ったりしていました。

――YouTubeにアップロードされている動画で安生さんの歌声を聴くことができるのですが、とても素敵だなと。こうして実際にお会いして、個人的にはすごくミュージカルに向いているように思えるので、ぜひ安生さんがミュージカルに出演する機会があるといいなと勝手に思っています(笑)。

そうなんですね、ありがとうございます(笑)。実は近年、ミュージカル熱が再燃していまして。渡辺謙さん主演のミュージカル舞台『The King and I(王様と私)』を見て、本当に素晴らしくて感動しました。あとはTVシリーズの『glee/グリー』ですね! 私の好きなミュージカルは、舞台ではなくても、このような映像作品でもやれるかもしれないという可能性を感じました。私も将来の目標のひとつとして、ぜひ挑戦できたらいいなと思っています!

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――最後に、日本からアメリカへ拠点を移したことで、もっとも良かったと感じている点は?

アメリカでは「年齢は関係ない」というのが大きいです。私は渡米した時点で年齢的に遅いのではないかという思いもありましたが、どんな年齢でもオーディションがあるというのが救いですね。

とはいえ、カレッジである先生の歌の授業を受けていたときに「あなたはtoo old!」と言われたこともあります。若い学生たちと一緒に勉強したり話したりしていると、そういう気持ちになることもありました。でも、例えば今回も、キミコは20代の役として募集があったのですが、30代の私でも挑戦させてもらえることが本当に嬉しかった。年齢に関係なく、役に合っていれば認めてくれるということと、オーディションでフェアにチャンスがあるところが日本とアメリカの大きな違いです。

だからこうした取材でも、あえて生年や詳細な年齢は公開しないことにしました。今後、何らかの形で公開することもあれば、調べればわかってしまうこともあるでしょう。でも、私は年齢にとらわれずに挑戦する気持ちを大切にしています。もし、このインタビューを読んでくださった方のどなたかおひとりにでも、ちょっとした勇気に繋がったと思っていただけたら幸せです。



取材・文/今祥枝 撮影/小田原リエ スタイリスト/大塚由美子 ヘアメイク/国分玲香

ワンピース:ADELLY(Office surprise)03-6228-6477 アクセサリー:Osewaya(お世話や)

安生めぐみ(あんじょう・めぐみ)
昭和音楽大学短期大学部ミュージカル科を卒業後、奈良橋陽子が主宰するアップスアカデミーでアメリカの演技手法を学ぶ。同時に、日本舞踊正派西川流に入門し師範名取に。時代劇舞台やテレビの現場で経験を積み、2011年に20代後半で本格渡米。ロサンゼルス・バレー・カレッジの音楽科で発声を中心に音楽理論も学びながら、オーディションを受ける。2021年、渡米10年にして映画『リコリス・ピザ』、米NBCネットワークの人気ドラマ『グッドガールズ:崖っぷちの女たち』シーズン4に出演。映画とテレビでの同年デビューを果たした。

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『リコリス・ピザ』(2021)Licorice Pizza 上映時間:2時間14分/アメリカ
1970年代のハリウッド近郊、サンフェルナンド・ヴァレー。子役として活躍している高校生のゲイリー・ヴァレンタイン(クーパー・ホフマン)は、学校の写真撮影のためにカメラマンアシスタントとしてやってきたアラナ・ケイン(アラナ・ハイム)に一目惚れ。「君と出会うのは運命なんだよ」と自信満々にアプローチしてくる強引なゲイリーの食事の誘いをアラナは受け入れ、次第にふたりは距離を縮めていく……。

公開中
配給:ビターズ・エンド、パルコ ユニバーサル映画
© 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト
https://www.licorice-pizza.jp/#