公の顔を優先する姿勢が家族を傷つけているという見立ては、不公平だと思います。
──今話された顔に関しては『慎重を要する職業 A ticklish sort of job』でフォーカスされていると思います。一方、『ひどい出来事 Horribilis』というチャプターも用意されています。ことご家族に関しては、プライベートの顔よりも、女王の公の顔の方を優先されたことが、ダイアナ妃の離婚劇や、ヘンリー王子との別離など、ときに家族が傷つく事態を招いたとも思えるのですが。
「その見立てはエリザベス女王には不公平かなと僕は思います。もちろん家族のトップで、家長でありますが、母親であり、おばあ様でもあります。家族間がどういう関係なのかまでは知らされていないけれど、英国民からすると、エリザベス女王は孫やひ孫と仲が良く、我々の見えないところで、家族のためにいろんなことをしている。孫とひ孫と長い時間を過ごし、いい関係を築いていて、私たちが思っているよりも、家庭的な面があります。
ただ、ダイアナ妃の死や、アンドルー王子のスキャンダルなどが起きたとき、どうしてもパブリックな顔にプライベートな要素が出てきて、母親としての公に、その役割を見せなくてはいけなくなる。本来ならプライベートですむはずなのに。今回、チャールズ皇太子が赤ちゃんだった頃の映像を使っていますけど、それを見ると、家族に対して愛情深いことがわかります」
ロジャーはエリザベス女王の乗馬のシーンを気に入っていた。
──ケヴィンさんは、ミッシェル監督と長年のお付き合いです。今作の編集が終わった直後に突然亡くなられたと聞いておりますが、ミッシェル監督が編集しているとき一番楽しそうに作業されていたシークエンスを教えてください。
「それは難しい質問ですね。おそらく一番楽しかった作業は映画作り、そのものだったと思います。しいて言えば、先程、あなたも挙げていた長めの尺の乗馬シーンでしょうか。あそこはジョージ・フェントンに音楽を書きおろしてもらって、その曲もかなり気に入っていましたね。
もうひとつは、最後のチャプターである『グッドナイト Goodnight』でしょうか。小さい頃から数えきれないほどの人々と会い、握手をしてきたエリザベス女王。膨大なクレジットから各国首脳との握手の場面を集め、ここは時系列的に今から過去へと逆行させています。このアイディアは監督が当初から温めていたもので、その作業をすごく楽しそうに編集していました。また何と何の映像をぶつけるのか、その編集も楽しそうにしていました」
──情報量が多いので、何度も繰り返し見る作品だと思いました、ありがとうございました。
エリザベス 女王陛下の微笑み
2022年に96歳を迎え、在位70周年となったイギリス君主エリザベス2世の初の長編ドキュメンタリー映画。21年9月に急逝した『ノッティングヒルの恋人』などで知られるロジャー・ミッシェル監督が、新型コロナウイルスの感染拡大で次回作の撮影機会が奪われた際に、企画を始動。
1930年代から2020年代までのアーカイブ映像からエリザベス2世の足跡をたどり、女王の知られざる素顔に迫っていく。ザ・ビートルズ、ダニエル・クレイグ、マリリン・モンローといったスターのほか、歴代の英国首相、政治家やセレブなど、そうそうたる人物たちから一般市民までの交流の姿を追う。
2021年製作/90分/G/イギリス
原題:Elizabeth: A Portrait in Part(s)
配給:STAR CHANNEL MOVIES
© Elizabeth Productions Limited 2021
2022年6月17日(金)より、東京の「TOHO シネマズ シャンテ」ほかにて全国にてロードショー公開。