大企業やそれを取り巻く社会の変化だけでなく、人材を受け入れるベンチャー企業の状況も「この10年で大きく変化した」と森本氏は指摘する。

まず大きいのは、ベンチャー転職の成功例が身近にできたことだ。ベンチャー企業に転職して活き活きと働く、かつての同僚や友人がおり、光り輝いて見える。

自分もそうなりたい――。

転職して活躍する身近な存在に自らを照らし合わせることで、ベンチャー企業に活路を見出すビジネスパーソンが急増しているという。

大企業を辞めてベンチャーに転職する前にやるべき「たった1つのこと」_2

また、ベンチャー企業の資金調達環境も好転している。

ベンチャーキャピタルの存在に加え、ここ数年で国や各種自治体がベンチャー企業へ多種多様な支援策を打ち出した。大企業や上場後のメガベンチャーなども自社の戦略目的のためにコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を組成するなど事業会社もベンチャー企業との連携を強化している。さらにコロナ禍の企業支援の一環で融資のハードルが一段と下がったことも、ベンチャー企業にとって追い風になった。

その結果、創業間もないベンチャー企業でも調達した資金を活用して積極的に人材採用を進めている。先の調査で「大企業とベンチャー企業の給与格差も急速に縮まっている」と指摘されているのは、このような背景があるようだ。

安易なベンチャー転職には「リスクがある」

10年前と比較すると、大きく変化したベンチャー転職。しかし、森本氏は安易なベンチャー企業への転職には「リスクがある」と警鐘を鳴らす。転職が成立することで一定の収益を得られる転職エージェントの森本氏が、あえて自らにとって不利益になりかねない発言するのは、長年業界に関わって見てきた敢然たる現実があるからだ。

「まず前提が全く違います。ベンチャー企業は会社名を口にしたところで、基本的には世の中には知られていません。看板で仕事ができる大企業とは、そこが根本的に異なります。大企業は営業をせずとも取引相手が揉み手で近づいてくる一方、ベンチャー企業は必死に営業しても見向きもされないことがあるでしょう」