YouTuberとして制作とパフォーマンスのバランスを学んだ1冊

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『東京、音楽、ロックンロール』志村正彦(ロッキング・オン)

そして2020年、「YouTube始めたら登録者10万人くらいいけるんちゃうかな」と思い立ち、ヌルっとYouTubeをスタート。最初は「東大理Ⅲ生のカレー」など仲間内に向けたネタ動画を上げていたが、徐々に登録者数が伸びはじめ、「引くに引けなくなって」YouTuber・ベテランちとして本格的に活動するようになる。

「規模は小さいですけど登録者が増えて『ベテランち』として振る舞うようになって、表に出て仕事をしている人がどんなことを考えているのかが気になったんですよね。特にミュージシャンって、孤独に音楽制作と向き合うことと大衆に向けてパフォーマンスをすることという、相反する活動を両立しているわけじゃないですか。

彼らがそういう矛盾をどう消化してバランスをとっているのかに興味があって。特にYouTuberは視聴者のニーズに寄せたことを際限なく言えてしまうから、そこのバランスが重要だなと思うんですよね」

さまざまなミュージシャンやタレントの本を読み込んでいく中で、特に思い入れがあるのがフジファブリック・志村正彦の日記が収録された『東京、音楽、ロックンロール』だという。

「志村さんって『線の細い天才』みたいなイメージが強いけど、日記を読んでいるとプロのミュージシャンとしての覚悟が伝わってくるんですよ。喉のポリープで入院したり、体調が悪い中でも曲を作ったりっていうことが書かれている中で、『若者のすべて』が完成した日のことも書かれていて。そういう表現者としての喜びも苦しみも描かれてるのがいいんですよね」

エンタメ小説、スポーツ漫画、批評、短歌に至るまでさまざまなジャンルの本に親しんできたベテランち。笑いに比重を置いた自身のYouTubeチャンネルでは「ノイズになる」という理由であまり表には出していないが、本棚には他にも専門書からエンタメ書籍まで、幅広いジャンルの本が並んでいた。

「僕は勉強論者なんで、世の中的には勉強じゃないとされていることも勉強でなんとかなる、っていうのがこれまでの経験でわかってきたというか。読んでみて結果的に役に立たなくても、本を買って環境を整えたことが後から生きてくることもある。だからできるだけ本を集めて知識を入れておくっていうのは、昔から一貫しているかもしれないですね」

YouTube界の異才・ベテランちを形づくったのは、学生時代からの文学への偏愛とゲームへの探究心だった。こうした読書遍歴を踏まえてYouTubeの動画を観てみると、今までとは少し違った「ベテランち」の姿が見えてくるかもしれない。


取材・文/山本大樹