異様さと美しさが同居する1冊

東大医学部YouTuber・ベテラン中学生を生み出したオススメの名著5選_5

「胡桃の戦意のために」平出隆(思潮社)

一年の浪人を経て東大理Ⅲに合格し、晴れて東大生となったベテランち。神保町の古本祭りでたまたま穂村弘のサイン本を手にしたことをきっかけに、短歌の世界に足を踏み入れた。現在もYouTuberベテランちとしてではなく本名の「青松輝」名義で、詩歌の活動にも熱を注いでいる。

「もともと短歌には興味があったんで、短歌サークルに入って短歌を作るようになりました。それをきっかけに小学生以来の文学への関心が戻ってきて、大学1年生の頃から現代詩や文芸批評の本も掘っていった感じですね」

特に感銘を受けたのが、平出隆『胡桃の戦意のために』(思潮社)。111編の詩がボックス状にレイアウトされており、異様さと美しさが同居するインパクトのある詩集だ。

東大医学部YouTuber・ベテラン中学生を生み出したオススメの名著5選_6
『胡桃の戦意のために』帯裏の写真。画像提供/ベテランち

「余分なものを削ぎ落として、詩として書くべき言葉だけを残したような詩集なんです。詩という表現形式に対する自己言及的な“戦意”と、“胡桃”に代表される美的なモチーフの操作のあいだに、〈きみ〉とのある種ロマンティックな関係性が生まれていく。それでいて詩集全体としてはシンプルで清潔な印象を与える、ソリッドな作風に惹かれました」

短歌から派生して、文芸批評への関心も

同時に、蓮實重彦や浅田彰といった批評家にも関心を持った。なかでもベテランちの心を掴んだのは、柄谷行人『批評とポスト・モダン』だった。

東大医学部YouTuber・ベテラン中学生を生み出したオススメの名著5選_7

「柄谷行人の文章は、余計な修飾を省いて誰でも読める平易な文体でありながら、内容は実はかなりエモーショナルでポエティックだと思っていて、そこが好きですね。

『ポストモダンの思想家や文学者は、実はありもしない標的を撃とうとしているのであり、彼らの脱構築はその意図がどうであろうと日本の反構築的な構築に吸収され、奇妙に癒着してしまうほかない。これを消費社会のせいにすべきでない。』

っていう一文とか、めっちゃイキるやんっていう(笑)。でも、こうやって否定していった先に必要な言葉だけを残していくってスタイル自体はすごくロマンティックだと思って。個人的にも80年代の思想に関心があるので、他にも色々読んでいます」