「何か恩返しができたら嬉しい」

朝長が営業する「鮨 美桜」では「すしさとる」と同じ内容のコースを提供している。

「最初は太巻きが巻けなくて、手巻きで出していました。できないことは他のスタッフさんにお願いしていたんですけど、今は一通り、自分で提供できるようになりました」

できないままでは悔しい。そんな負けず嫌いの彼女は、シャリの重さや形をそろえるために、日々自宅で握る練習を続けている。本人が掲げる店のテーマは「成長を見守ってもらうお寿司屋さん」だ。

「シャリの形が歪だと、お寿司が転がっちゃうんですよ。ファンの方々は『大丈夫だよ』と言ってくれるし、ファンではない方も『こんなにドキドキするお寿司屋さんは初めてだ』って。そうやって楽しんでくれるのはありがたいんですけど、いつかはかっこよく置けるようになりたいです。

私のことを知らずに来てくださった方が、2回目のご来店で『シャリが安定してるね』『今回ここがよかったよ』って、感想を聞かせてくれるんです。直接声を聞けるから、『成長できてるんだな』って実感できます」

予約は当初、ファンクラブの会員限定で受け付けていた。その後は一般からも予約ができるようになり、朝長がアイドルだったことを知らずに訪れる客もいる。もちろん、長く応援してきたファンも店に足を運んでいる。

「私と話したくて来てくださる方もいるので、なるべく皆さんとコミュニケーションをとりながら握るようにしています。

オープンした4月から8月まで毎回来てくださった、皆勤賞の方もいらっしゃるんです。『最初は不安だろうから』って通ってくださって。一般の方も予約できるようになり、営業が週1回になったときには、『もう大丈夫だよね』『頑張れるよね』って。『キャンセルが出たらまた来るから、それまで頑張って』と背中を押してくれました。

こうやってアイドルを卒業しても、温かく応援していただけるのは本当にありがたいことだと思います。つらくてもアイドルを続けてきてよかったなと思えるし、ずっと応援してくれているファンの皆さんには本当に救われてます」

自分の店を持つことについては、まだそこまで考えていないという。

「タレント業を優先しつつ、できる限りの範囲で寿司職人の活動を広げていきたい気持ちもあります。たとえば福岡に握りに行ったり、ケータリングをしたり、海外に出向いたり、出張という形でお寿司を握れたらいいなと」

48グループから別な職業へのセカンドキャリアが注目される昨今、「もしHKT48の後輩が弟子入りを希望したら?」と聞いてみると。

「もちろん歓迎です!(笑)。寿司業界もHKT48も盛り上がったらいいなと思いますし、どちらにも何か恩返しができたら嬉しいです」

「メロンジュース」で紅白のステージにまで上り詰めたトップアイドルは、マイクを置いて「カウンター」という新たな舞台で寿司を握る。見守ってくれたファンへ、育ててくれたHKT48へ、新たな挑戦を優しく迎え入れる寿司店へ――恩返しの想いすべて握った一握りはきっと人々を笑顔にする。

寿司職人としても活動する朝長美桜(写真/吉岡竜紀)
寿司職人としても活動する朝長美桜(写真/吉岡竜紀)
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取材・文/キムラ

(写真/吉岡竜紀)