取材を「証拠」に記者を拘束

気の毒でならない。記者には、新聞記者の妻と、生まれて間もない子どもがいるという。記者として当たり前の仕事をしていた人が、人生の10年、20年を奪われかねない。

ロシア刑法のスパイ罪は懲役10~20年。取材を犯罪に仕立てられれば、その重い刑が現実のものとなる。彼はスパイではなく、国家間の駆け引きに使われる「人質」にされたのだろう。

この理不尽から国民を救い出す手段を持たず、ロシアへの弱腰外交を続けてきた高市政権の責任は重い。

ロシア連邦保安局(FSB)は13日、サハリン州で北海道新聞の記者をスパイ容疑で拘束したと発表した。問題視したのは、北方領土と千島列島からウクライナでの戦闘に動員された住民らに関する情報収集だ。日本の情報機関の指示を受け、ロシアの安全保障を脅かす情報を集めたと主張している。

北海道新聞の記者に対して勾留2カ月を認めたモスクワ東部レフォルトボ地区の裁判所入り口(写真/共同通信社)
北海道新聞の記者に対して勾留2カ月を認めたモスクワ東部レフォルトボ地区の裁判所入り口(写真/共同通信社)
すべての画像を見る

「記者にスパイさせるリスクとリターンが割にあわない」

だが、戦争が地域社会に何をもたらしているかを調べるのは、記者として当然の仕事だ。取材したという事実が、そのままスパイ活動の証拠になるはずがない。

英BBC放送のロシア語部門は、独立系メディアのメディアゾーナなどと共同で、地方メディアの報道や遺族の投稿、葬儀の告知といった公開情報から、ロシア軍の戦死者を一人ずつ確認し、集計を続けている。軍の損失を調べることは、戦争報道の基本である。

北海道新聞の記者も、危険には気を配っていたはずだ。少なくともFSBが公表した説明だけでは、彼がどのような非公開の軍事機密を手に入れたのかは見えてこない。

もう一つ重要なのが、FBSが今回の件を「日本の情報機関の指示」と主張していることである。

だが、ロシア語を専門とする「ロシアンスクール」出身の元外交官は、「ロシアで報道機関の記者にスパイをさせるリスクと、リターンが割に合わない」と、その筋書きを否定する。

得られる情報に比べ、記者を使うことが発覚した際の外交的損失が大きすぎるというのだ。