事業譲渡が決まった後も……
恵のビオネストへの事業譲渡が発表されたのは2024年11月(譲渡の実施は2025年3月)。この頃には、誰もが恵の運営は改善されているものだろうと思っていた。私もそうだった。だが、愛知県内のグループホームで働くBさんの目には全く違う光景が映っていた。
Bさんが勤めるホームでは重度の障害者約20人が生活していた。Bさんによると、2024年12月末の午前中、入居者の部屋で布団が尿と便で汚れたまま敷かれているのをスタッフが発見。入居者がおむつを着けて夜間に眠っている間に漏れ、夜勤者がそのままにして帰ったようだった。
2025年1月中旬には、身体と精神に障害のある入居者が「男性スタッフに額を強く押され、車いすごと後ろに倒された」とほかのスタッフに訴えた。いずれも該当のスタッフは放置や暴行を否定したという。だが、Bさんは「ほかにも不適切なケアが日常的に行われています」と証言した。
取材に対し、恵の本社は「個別の事案は把握していない。事実確認と行政への通報を検討する」と答えた。
Bさんによると、こんなこともあった。2024年12月、福祉関係者で作る地元の市の協議会がグループホームを評価する会合を開いたときのこと。恵のホームの管理者は運営状況について、実態とは異なる虚偽の書類を提出したという。スタッフへの研修などを行っていないのに、やったことになっていた。
Bさんは事前に市に内部告発していたが、市の担当者は取材に対しこう答えた。「通報が会議の数日前だったため、時間的な制約があり、管理者を問いただすことはしなかった」
「では、会議の場で聞けばよかったではないか」。私がそう質問すると、こんな回答が返ってきた。「この協議会では、市はあくまで事務局の立場で、私たちがそうした質問を事業者にする権限はない」
理屈は確かにそうかもしれない。だが、あまりの「お役所仕事」に私は絶句した。
Bさんは私にこうも話していた。「市にはこれまでも何回か虐待通報しましたが、何ともならなかったです」
これについて市は取材に対し、特に調査せずに「虐待かどうか判断できない」と結論を出していたことを認めた。市の課長は私にこう釈明した。
「虐待調査の担当職員は、ほかの業務も兼務していて、とても手が回らないんです。一件一件、丁寧に調べていたら、通報がどんどん積み上がってしまう。私たちも『いいかげんにしよう』なんて思っているわけじゃないんです」
Bさんは2025年3月の事業譲渡の直前、2月末で恵を退職した。「これまで『入居者のために』と思って、何とか続けてきましたが、もう限界です」。そして、祈るようにこう話した。「会社が代わっても、現場の管理者やスタッフが今のままではよくなるとは思えない。行政はしっかりチェックの目を光らせてほしい」
なお、恵は2023年9月に共同通信が不正の疑いを報道した際、「そうした話には悪意を感じる」とまで言って不正を否定。私は何度も記者会見を求めたが、東京本社の幹部社員が電話で対応するだけだった。幹部社員は「いずれきちんと説明する」と話していたが、ついに最後まで中出社長は公の場に姿を見せず、記者会見もしなかった。
取材・文/市川亨













