ちょっとした配慮で作る「みんなが楽しむ」空間

では、アイドルグループではどうだろうか。

STARTO ENTERTAINMENT所属のアーティストの公演では、ペンライトやうちわ、コール&レスポンスなど、独自の応援文化が長年形成されてきた。曲によっては観客が一緒に歌う場面もあるが、「この曲のここでは一緒に歌う」といった“お約束”がファンの間で共有されているケースもある。

もちろん、STARTO側が「演者の歌唱中に一緒に歌ってはいけない」と公式ルールで定めているわけではない。それでも、明文化されたルールとは別に、「ここでは声を出す」「ここでは演者の歌を聴く」といった楽しみ方が、ファン文化として共有されている。

それは他のアイドルグループでも一緒だろう。公式YouTubeチャンネルで『Cheering Guide』として、ファンのコール&レスポンスの大まかなガイドを出しているグループもいるぐらいだ。

一方で、観客の大合唱そのものが、ライブの醍醐味になっているケースもある。イギリスの伝説的バンド・オアシスの名曲「Don't Look Back In Anger」を数万人が一斉に歌う光景などは、その象徴だろう。

まさに十人十色。アーティストそれぞれの文化があることがわかる。

アーティストと一緒になって歌いたいと思うファンからは、「本人の歌をしっかり聴きたいなら、ライブ映像を家で見ればいい」という意見が出てくる。

しかし、生の歌と演奏をその場で体感したいからこそ、観客はライブ会場に足を運ぶ。逆に、「大声で歌いたいならカラオケに行けばいい」と言い返してしまえば、議論は平行線だ。

結局、「どこまで歌うか」の感覚は観客によって違う。求められた部分だけ歌う人もいれば、好きな曲を最初から最後まで歌う人もいる。矢沢永吉のように明確なルールがないからこそ、その違いが客席でぶつかってしまう。冒頭の男性は、こう話す。

「ライブをどう楽しむかは人それぞれだと思います。大声で歌うことも、その人にとっては楽しみ方のひとつなのかもしれません。ただ、そのすぐ隣には、あなたの歌ではなく、バンドの歌と演奏を聴きに来た人がいる。同じファンであるならばこその思いやりもライブでは大事なように思います」

やはり、万人が納得する答えはないのだろう。ただ、ひとつだけ基準を挙げるなら、自分の歌声で隣の人が演者の歌を聴けなくなっていないかどうか。そこまで考えることも、ライブを「みんなで楽しむ」ことの一部なのだ。

取材・文/千駄木雄大