アーティストによって異なるルール

SNSでも「山口さんの歌声があまり聴こえなかった」「素人のカラオケ大会」といった不満が上がる一方、「ぶち上がった」と絶賛する声もあった。

「あれだけ大熱唱できたら、周りを気にせず歌っている本人は楽しかったでしょう。でも、僕は山口さんではない人たちの歌声ばかり聴こえてきたので、テンションだだ下がりでした」

と、静かな苛立ちを口にした。とはいえ、観客が一緒に歌うこと自体は、ライブならではの楽しみ方のひとつでもある。演者が客席にマイクを向け、大合唱が生まれることも珍しくない。

ただ、演者に求められて歌うことと、演者が歌っている最中も隣の客が熱唱し続けることは、同じ「ライブで歌う」でも意味が違うのではないか。

問題は「歌っていいか、いけないか」という二択ではなく、どこまでなら周囲の鑑賞を妨げずに楽しめるのか。その線引きだろう。

25周年を彩るサマソニのゲート(写真/読者提供)
25周年を彩るサマソニのゲート(写真/読者提供)
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この問題に明確な答えを出しているのが、ロックミュージシャンの矢沢永吉だ。矢沢のコンサートでは、1曲目から本編終了まで「永ちゃんコール」や「一緒に歌う」といった行為が禁止されている。

現在のルールが定着するきっかけとなったのは、2019年に公式ホームページで発表された「私設応援団お断りについて」だった。さらに2021年のツアーで声出しを禁止したところ、ファンから「永ちゃんの歌がちゃんと聴けてすごくよかった」「周りに騒ぐ人がいなかったので快適だった」といった声が多く寄せられた。

そこで、コロナ禍による声出し規制がなくなった後もルールを継続。2026年のツアーでも、本編中の「永ちゃんコール」「一緒に歌う」は禁止する一方、開演前とアンコール以降は、周囲の迷惑にならない範囲で声を出していいことになっている。

興味深いのは、単純に「ライブでは声を出すな」としているわけではないことだ。本編は矢沢の歌と演奏を聴き、アンコール以降は観客も声を出して盛り上がる。つまり、「聴く時間」と「声を出す時間」の境界線を主催者側があらかじめ引いている。

また、山下達郎も観客の熱唱について自身のラジオ番組で興味深い発言をしている。

「ライブで(アーティストと)一緒に大声で歌うと、妻から『あなたの声しか聴こえない』と怒られる」という相談が寄せられると、山下は「ダメです」と回答。周囲はあなたの歌を聴きに来ているのではない、という趣旨で苦言を呈した。

ただし、山下はのちに「お客が一緒に歌うのをダメだと言った覚えはない」と説明している。問題にしたのは歌う行為そのものではなく、「隣の人に迷惑をかけるほどの歌い方」だったという。