「フェドロフ氏が戦後の大統領選を意識している」

正式な役職や制度の外側で意思決定が行われ、大統領への接近経路を持つ人物が権力を維持する構造そのものが問われている。

筆者がフェドロフ氏の交代説を初めて聞いたのは6月だった。当時、ウクライナ軍はロシア国内への無人機攻撃を拡大し、石油施設などに打撃を与えていた。その能力整備を主導した改革派の象徴を交代させるという情報には違和感があった。

だが同時に、「またか」との思いも拭えなかった。ゼレンスキー政権では、実績だけでは説明できない人事が繰り返されてきたからだ。欧米との独自のパイプを築いた閣僚や、国民的人気を得た軍関係者は、能力を評価される一方、大統領府から独立した政治的存在になることを警戒されてきた。

その頃、「フェドロフ氏が戦後の大統領選を意識している」との観測も広がった。軍改革の実績や若い世代からの支持を背景に、将来の政治的地位を狙っているのではないかとの見方である。こうした観測が政権内で流布すること自体、実績を上げた閣僚が潜在的な競争相手とみなされる空気を示している。

フェドロフ氏の交代後、ゼレンスキー氏は側近のキリロ・ブダノフ大統領府長官らと対応を協議したとされる。元スパイのトップであるブダノフ氏は、シルスキー氏も交代させることで、フェドロフ氏だけを狙い撃ちしたとの印象を和らげるべきだと提案したという。

フェドロフ氏の交代後、キーウでは抗議活動

表向きは改革派と現場派を共に退けた「両成敗」でも、実際には、大統領府から独立した基盤を持ち得る人物を排除し、忠誠と影響力の線を引き直す作業だった可能性がある。

誰が解任されたかだけでなく、その後、誰が大統領の隣の席に座ったのかを見なければ、この人事の本質は分からない。

フェドロフ氏の交代後、キーウでは軍改革の継続や透明な意思決定を求める抗議行動が起きた。退役軍人や市民らが参加し、月末には数千人規模に広がった。人事への不満だけでなく、兵士の命を守る戦い方や調達の透明性、軍の立て直しを求める声が重なった。

ウクライナ・キーウで、フェドロフ氏の国防相更迭に抗議するデモの参加者(写真/共同通信社)
ウクライナ・キーウで、フェドロフ氏の国防相更迭に抗議するデモの参加者(写真/共同通信社)

市民が求めているのは、改革派か現場派かを単純に選ぶことではなく、何が失敗し、誰が責任を負い、改革を今後どのように続けるのかを説明することだ。

しかし、政権が「改革の加速」を掲げるだけでは、なぜ改革を主導した人物を外す必要があったのかという根本的な疑問には答えられない。