「今夜にも使える場所」がすでにあるのに、別都市に新官庁街を造る不自然

内閣府が2013年に札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、福岡などを比べた代替拠点調査でも、立川は候補から落ちたのではない。すでに緊急対策本部を置く広域防災基地だったため、候補地の比較から外されている。

ある意味では、政府は長年かけて“答え”を造ってきたのだ。その答えを使わず、別の都市に新しい官庁街を造る方が不自然である。

大阪が遠いから安全だという話も粗い。湾岸部や低地、河川沿いには津波、浸水、液状化、防潮堤沈下の危険がある。大阪府が2013年にまとめた南海トラフ巨大地震の最大想定は、死者約13万4000人、経済被害28.8兆円だった。

国家の予備装置に必要なのは「東京と同時に揺れないこと」だけでもない。

大阪が先に被災している時、東京で別の危機が起きることはある。東海道の鉄道、高速道路、空港、港が広域に傷つけば、東京から大阪へ人と機材を送ることも難しくなる。

大阪1カ所を唯一の副首都にする設計は、東京の危険を消すのではなく、別の危険へ積み替えるだけだ。

バックアップは立派な都市を1つ選ぶ競争ではない。初動用、長期退避用、通信データ用を分け、同時に失わない形で重ねる仕事である。

立川は近いから初動に強い。大阪などの遠隔地は遠いから長期退避に使える。役割の違う拠点を無理に「副首都」1カ所へまとめるから、施設も組織も過大になり、平時には何の役にも立たない第2霞が関ができる。

立川市にある昭和記念公園
立川市にある昭和記念公園

防災予算が莫大に積み上げられてきた東京

では東京は安全なのか。もちろん違う。2025年12月に国が更新した都心南部直下地震の想定では、死者は最大約1万8000人、全壊・焼失は約40万棟、経済被害は約83兆円である。

前回想定の死者約2万3000人、全壊・焼失約61万棟から減ったが、国家級の被害である。東京だけで全てを抱える設計は危険だ。

ただし、東京は危険を放置している都市でもない。小池百合子東京都知事の肝いり政策「TOKYO強靱化プロジェクト」において、防災予算が莫大に積み上げられてきており、例えば、東京都は2026年度予算で、地震対策4650億円、風水害対策2119億円、電力・通信確保2501億円などを積み上げた。

東京が毎年数千億円規模で耐震化、不燃化、河川、下水道、無電柱化、非常電源、通信の多重化を進める財政力を持つことは明白である。東京を捨てて同じ設備を大阪にもう1組造るより、東京をさらに強くし、その内側に立川という予備司令部を置く方が安く、早い。