「元アイドル」という肩書きを肯定するために
アイドルという職業は、ファンからの無条件の愛や肯定に包まれる特殊な世界だ。しかし一歩外に出れば、厳しい世間の評価が待っている。
「卒業後にファンミーティングのようなイベントだけをやって、過去の貯金を切り崩すだけになってしまうと、言い方は悪いですけど、やっぱりちょっと“アイドル崩れ”になってしまうなっていう思いがすごくあって。それってアイドルをやっていた頃の自分にも失礼だし、当時応援してくれていたファンの方のことも悲しくさせちゃうと思うんです」
SNS上の称賛も批判も、彼女は一定の距離を保って受け止めようとしている。作風の変化によって、かつてのファンが手のひらを返す瞬間も経験してきた。
「オタク漫画を描いていたときに『今日の漫画面白いね』って言ってくれていた人が、次の日にまた少し違う話を投稿すると『なんでこんなの書くんだよ!』って、すっごい手のひらを返してアンチになることもあったりして……。
人から向けられる『好き』っていう気持ちはすごく嬉しいけれど、その感情はナマモノだから、一生続くものではないんです。その瞬間の尊さは大切だけど、いつかは変わってしまうものだから。なので、批判はもちろん、過度な称賛に対しても心の中にバリアを張って、振り回されないようにしています」
「可愛い自分」より「作品の評価」
現在、鹿目はほぼ毎日のペースでSNSに作品を投稿し続けている。しかし、彼女はすでにその先を見据えている。
「今はまだ『漫画家』って名乗るには、正直、自信がないです。プロの漫画家さんに比べたら表現力も基礎も足りなさすぎるから、いろんな作品を読んだり実験したりして基礎を学んでいる最中です」
かつて自身の中にあった承認欲求は、今や完全に過去のものとなった。
「昔はずっと『可愛い自分を見てほしい』っていうアイドルとしての承認欲求があったんですけど、今はそれがまったくありません。自分の顔や名前よりも、自分が生み出した作品が評価される方が幸せを感じるんですよね。その変化に気づいたときに、『あ、今の自分の幸せってこっちかも』って確信できました」
過去の肩書きだけに頼ることなく、表現者として愚直に描くことを選んだ鹿目凛。世間の摩擦や人間の弱さをすくい取る彼女の漫画は、私たちが自分自身の心と向き合うきっかけを与えてくれるだろう。
取材・文/キムラ 撮影/稲垣謙一













