二度のショック
ジアは、中村が銃撃で負った傷と、その処置について、ナンガルハル地域病院の主治医から聞き取った内容を、次のように私に語った。
「ドクター・サーブの右わき腹に深い銃創がありました。当初、傷は浅いと思われましたが、先生の血圧はどんどん下がり、血流を保てないショック状態に陥りました。体外への出血よりもお腹のなか、腹腔内の出血のほうが深刻でした。
弾丸は、右の背中から入って、胃をかすめて肝臓、腎臓の一部を傷つけて右わき腹から外に出たと主治医は見ていました。医師団は、大量の輸血をしつつ、開腹して、止血手術をします。全身麻酔で、出血部分をガーゼで圧迫して血を止める手術を施し、腹腔内を洗浄して、開いたお腹を縫合していました」
アフガニスタン政府は、(※ナンガルハル地域病院ではなく)ジャララバード空港内の米軍のクリニックで中村の容態を落ち着かせ、ヘリでカブール(の医療設備が整った米軍病院)へ移す予定を組む。
(※米軍が基地を置く)ジャララバード空港へ、中村を乗せた救急車がGTロードを疾走する。
狭い車内で、中村の弟子たち――ジア、ディダール、ファヒームは、昏睡する師のそばで祈りを捧げた。空港に向かう途中で、中村の拍動が止まりかけた。主治医があわてて心臓マッサージをして、心音は戻った。
救急車は、空港の敷地に入り、アフガン兵が立つ第一ゲートをくぐった。なおも進んで米軍の警備兵が歩哨に立っている第2ゲートに達した。
アメリカ人の警備兵は、その場に救急車を停止させ、後ろ扉を開けて、こう告げた。
「ここから先はわれわれが患者を運びます。こちらの救急車に患者を移してください」
これが、救急車なのか……。トヨタのハイエースのようなバンのなかは空っぽで、酸素吸入の機器もなければ、生体情報モニターもない。ディダールは言う。
「搬送の連絡をしたのに何の準備もしていない。すごいショックでした。ドクター・サーブが撃たれたのが最初のショック。空港内で米軍が準備した車で二度目のショックを受けたんです。ドクター・サーブをストレッチャーにのせたまま、酸素ボンベや心臓、脳波のモニターに点滴……すべてつけたまま米軍の車に移しました」
医師のジアは、憤然として、中村の身体を移した米軍の救急車に乗ろうとした。
「ノー!」米兵がはねつけた。
「あなたはこちらのエリアに入ってはいけない。規則です」
「いやいや、この人は、わたしたちアフガン人数100人が働く団体と、日本で2万人以上が支援してくれている組織の最高責任者です。わたしは医師免許を持っています。彼を見守らなくてはいけない。彼の容態を関係者に伝える義務があるのです」とジアは抵抗した。
「ノー、だめだ。一歩も立ち入ってはならない」米兵は頑なに拒んだ。そこで押し問答をしている暇はなかった。ジアが悔しさを声ににじませて、こう追想する。
「米兵に、ここはどこだ、アフガンだ、おまえたちの国ではない、と喉もとまで出そうになったけど、ドクター・サーブの治療は一刻を争います。抗議をしている時間はなかった。やむなく事務所に引き返したのです」
中村を乗せた車は、ジャララバード空港の奥に消えていく。さまざまな葛藤をくりひろげた相手、アメリカ軍の懐のなかへ、中村はたった1人で運ばれていった。













