慟哭
(※藤田千代子の携帯電話の)着信音が、鳴った。
「シスター、シスター、わぁーっ、シスター・フジタ」
電話口のジアは半狂乱だった。
「ドクター・サーブが、あーっ、亡くなりました。州政府からいま連絡がありました。空港に搬送したとき、ドクター・サーブは生きていた。間違いなく、生きていたんだ」
ジアは慟哭した。中村は搬送されたジャララバード空港のクリニックで息をひき取った。カブールへの移送は間に合わなかったのである。
藤田は携帯を握りしめたまま、その場に崩れ落ちた。全身の力が抜けて立ち上がれない。ジアの号泣が電話口から洩れてくる……。
風が弱まり、桜島は高々と噴煙を上げていた。
中村を、いったい誰が襲ったのか。
中村と名もなき人たちは、壮大な灌漑事業で、沙漠化していた荒れ地を、緑野に変えた(撮影/山岡淳一郎)
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文/山岡淳一郎
2026/2/26
2,860円(税込)
452ページ
ISBN: 978-4087817744
父は共産党活動家、母は玉井組の親方の娘。15歳で自らの意思で洗礼を受け、学生運動で検挙された青春時代……戦乱と大旱魃のアフガニスタンで90万人以上の命を救い、2019年12月、正体不明の武装集団の凶弾によって命を落とした医師・中村哲とは、いったいどんな人間だったのか。その生涯にわたり中村が巡り合い、深く関わった様々な人びと100人以上に著者はインタビューする。福岡、鹿児島、岡山、静岡、神奈川、東京、パキスタン、そしてアフガニスタンと約5年に及ぶ取材を敢行。群像のなかから鮮やかな「人間・中村哲」の姿を立ち上がらせる。大勢の人生を巻き込み、滔々と流れる大河のような中村哲を源流までさかのぼり、生い立ちから死まで描いた驚くべき本格的評伝、圧巻の452ページ。今こそ読まれるべき「人間・中村哲」の真実。
【目次】
プロローグ 水が天に昇る谷
第一章 革命の炎
第二章 同志
第三章 浸礼――永遠の別れ
第四章 青春漂流
第五章 失われた世代
第六章 空爆とナン
第七章 冬の陣
第八章 口紅
第九章 カカムラ!
第一〇章 帰還
あとがき 神と出会った男、神になりたかった男